アルベルト・アインシュタインの論文を読む

アインシュタインの論文に関する独断と偏見に満ちた読後報告です。

1916年の論文「一般相対性理論の基礎」(その5)

 前節では線素の平方を与える基本テンソル g_μν について詳しく考察しました。線素の平方は隣接する時空点の関係を示すものです。次節では離れた時空点を結ぶ測地線について考察をします。第9節

9 測地線の方程式、粒子の運動

を読みます。線素 ds はスカラーで隣接する2点の距離ともいうべき量で、座標系とは独立に定義され、座標変換で変わらない量です。4次元連続体の2点 P_1P_2 の間に、∫ds が定常であるようにひかれた曲線、つまり測地線もまた座標の選び方にはよらない意味を持っています。その測地線の方程式は、


δ { ∫_P1^P2 ds } = 0


です。通常の変分を行うことによって、この方程式から測地線を定義する4つの微分方程式を導出することができます。アインシュタインは議論の完全を期して変分による微分方程式の導出過程を以下に書いています。


 λ を座標 x_ν の一つの関数とします。この関数はある曲面群を定義するもので、その曲面は求めようとしている測地線と、その測地線の近くにあって P_1P_2 を通るすべての曲線と交わっているものです。このとき、P_1P_2 を通る曲線は曲面と交点を持つので、曲面ごとの交点を表すことで曲線を表示できることになります。つまりこの曲線上の点の座標 x_ν を曲面群の中の一つの曲面を指定する λ の関数として媒介変数表示によって与えられると考えることができます。変分の記号 δ は求める測地線上の点からそのそばにある曲線上の同じ λ に対応する点、つまり同じ曲面と交差している点への変分を取ることを示すものとします。このとき


ds = √(g_μνdx_μdx_ν) = √{g_μν(dx_μ/dλ)(dx_ν/dλ)} dλ


ですから


∫_λ1^λ2 δ √{g_μν(dx_μ/dλ)(dx_ν/dλ)} dλ = 0


と書き換えられれます。ここで、λ_1P_1 が乗っている曲面の媒介変数値、λ_2P_2 が乗っている曲面の媒介変数値を表しています。ここで


w^2=g_μν(dx_μ/dλ)(dx_ν/dλ)


と置くと、変分は


δ(w^2) = 2wδw


= (∂g_μν/∂x_σ)(dx_μ/dλ)(dx_ν/dλ)δx_σ + g_μνδ(dx_μ/dλ)(dx_ν/dλ) + g_μν(dx_μ/dλ)δ(dx_ν/dλ)


= (∂g_μν/∂x_σ)(dx_μ/dλ)(dx_ν/dλ)δx_σ + 2g_μν(dx_μ/dλ)δ(dx_ν/dλ)


となりますが、座標の変化率の変分は λ を変化させずにとっているので、変分と微分の操作を入れ替えることができて


δ(dx_ν/dλ) = (d/dλ)δx_ν


となることから、被積分関数が


δw = (1/w){(1/2)(∂g_μν/∂x_σ)(dx_μ/dλ)(dx_ν/dλ)δx_σ + g_μν(dx_μ/dλ)(d/dλ)δx_ν}


であることがわかります。ここで λ について部分積分を行って変分の式を書き換えると、


∫_λ1^λ2 {(1/2w)(∂g_μν/∂x_σ)(dx_μ/dλ)(dx_ν/dλ)δx_σ + (1/w)g_μν(dx_μ/dλ)(d/dλ)δx_ν} dλ = 0


∫_λ1^λ2 (1/w){(1/2)(∂g_μν/∂x_σ)(dx_μ/dλ)(dx_ν/dλ)δx_σ dλ + ∫_λ1^λ2 (1/w)g_μν(dx_μ/dλ)(d/dλ)δx_ν} dλ = 0


∫_λ1^λ2 (1/w){(1/2)(∂g_μν/∂x_σ)(dx_μ/dλ)(dx_ν/dλ)δx_σ dλ - ∫_λ1^λ2 (d/dλ){(1/w)g_μσ(dx_μ/dλ)}δx_σ dλ = 0


∫_λ1^λ2 [(1/w){(1/2)(∂g_μν/∂x_σ)(dx_μ/dλ)(dx_ν/dλ) - (d/dλ){(1/w)g_μσ(dx_μ/dλ)}]δx_σ dλ = 0


となります。δx_σ は任意ですから、


(d/dλ){(1/w)g_μσ(dx_μ/dλ)} - (1/w){(1/2)(∂g_μν/∂x_σ)(dx_μ/dλ)(dx_ν/dλ) = 0


が従い、これが測地線が満たすべき微分方程式となります。ここで媒介変数を工夫します。もし測地線に沿った線素 ds がゼロにならないならば、測地線に沿って測られた曲線の「弧長」、変分の式


s = ∫_P1^P2 ds


を媒介変数に選ぶことができます。この場合


s = ∫_λ1^λ2 √{g_μν(dx_μ/dλ)(dx_ν/dλ)} dλ = ∫_λ1^λ2 w dλ = ∫_s1^s2 w ds


ですから


w = 1


となります。こうすると測地線の微分方程式は


(d/ds){g_μσ(dx_μ/ds)} - {(1/2)(∂g_μν/∂x_σ)(dx_μ/ds)(dx_ν/ds) = 0


g_μσ(d^2x_μ/ds^2) + (∂g_μσ/∂x_ν)(dx_ν/ds)(dx_μ/ds) - {(1/2)(∂g_μν/∂x_σ)(dx_μ/ds)(dx_ν/ds) = 0


と書き換えることができます。これはまた


(∂g_μσ/∂x_ν)(dx_ν/ds)(dx_μ/ds)=(1/2){(∂g_μσ/∂x_ν) + (∂g_νσ/∂x_μ)}(dx_ν/ds)(dx_μ/ds)


に注意すると、記号を書き換えて、


g_ασ(d^2x_α/ds^2) + (1/2){(∂g_μσ/∂x_ν) + (∂g_νσ/∂x_μ) - (∂g_μν/∂x_σ)}(dx_μ/ds)(dx_ν/ds) = 0


とまとめられます。クリストッフェルの記号


[μν,σ] = (1/2){(∂g_μσ/∂x_ν) + (∂g_νσ/∂x_μ) - (∂g_μν/∂x_σ)}


を用いると、


g_ασ(d^2x_α/ds^2) + [μν,σ](dx_μ/ds)(dx_ν/ds) = 0


となります。よく知られている形の測地線補方程式は、g^τσ を掛けて τ に関して外積、σ に関して内積を取って、クリストッフェルの3指標記号を2行にかけないので、


{μν,τ} = g^τσ[μν,σ]


と書いて用いると、


(d^2x_τ/ds^2) + {μν,τ}(dx_μ/ds)(dx_ν/ds) = 0


が得られます。接続係数 Γ^τ_μν とは添字が上下逆に書かれているので違和感があります。次節ではアインシュタインはこの測地線の方程式を用いて共変微分を定義しています。


 共変微分の導入を記した第10節

10 微分によるテンソルの形成

を読みます。アインシュタインは前節で求めた測地線の方程式を用いると、一つのテンソルから微分によって新しいテンソルを作る規則を容易に導くことができ、この方法によって一般的に共変な微分方程式を導くことができると述べています。よく知られている共変微分のことです。この目的のためにアインシュタインは、テンソルの内積がスカラーを作ることを繰り返し利用しています。


 今、連続体の中に一つの曲線が与えられていて、その曲線上の一点の位置がこの曲線上の特定の点から測られた弧長 s で表されているものとします。ここで φ が空間の不稔な関数、つまりスカラーであるとすると、曲線にそった微分 dφ/ds もまた不変量になります。その理由は とともに、線素 ds もまた不変量だからです。つまり


dφ/ds = (∂φ/∂x_μ)(dx_μ/ds)


ですから


ψ = (∂φ/∂x_μ)(dx_μ/ds)


もまた一つの不変量であるということです。さらに連続体の1点から出発するすべての曲線に対して、これは成り立ちます。即ち、dx_μ のすべての値に対して不変量、スカラーであるということです。dx_μ/ds は反変4ベクトルですから、


A_μ = ∂φ/∂x_μ


が一つの共変4ベクトルであることがわかります。これを φ の「勾配」といいます。ψ はスカラーでしたから、曲線にそって取られた微分商


χ = dψ/ds


も同様に一つの不変量です。上の ψ を用いて χ を計算すると、


χ = (∂^2φ/∂x_μ∂x_ν)(dx_μ/ds)(dx_ν/ds) + (∂φ/∂x_μ)(d^2x_μ/ds^2)


を得ます。今回の微分からはすぐにテンソルの性質は出てきません。ここで、曲線に沿って行った微分が、測地線に沿って行われた微分であるとすると、d^2x_μ/ds^2 を測地線の方程式


(d^2x_τ/ds^2) + {μν,τ}(dx_μ/ds)(dx_ν/ds) = 0


で書き換えると、


χ = (∂^2φ/∂x_μ∂x_ν)(dx_μ/ds)(dx_ν/ds) - (∂φ/∂x_τ){μν,τ}(dx_μ/ds)(dx_ν/ds)


= [(∂^2φ/∂x_μ∂x_ν) - {μν,τ}(∂φ/∂x_τ)](dx_μ/ds)(dx_ν/ds)


となります。一方、クリストッフェルの3指標記号は


[μν,σ] = (1/2){(∂g_μσ/∂x_ν) + (∂g_νσ/∂x_μ) - (∂g_μν/∂x_σ)}


{μν,τ} = g^τσ[μν,σ]


からわかるように添字 μν に関して対称であることから、


[(∂^2φ/∂x_μ∂x_ν) - {μν,τ}(∂φ/∂x_τ)]


は添字 μν に関して対称であることがわかります。測地線は連続体の1点を通って任意の方向に引くことができ、dx_μ/ds はその成分の比が任意の反変4ベクトルであるので、


A_μν = (∂^2φ/∂x_μ∂x_ν) - {μν,τ}(∂φ/∂x_τ)


は一つの2階の共変テンソルであることがわかります。このことは次の結果を導きます。1階の共変テンソル A_μ = ∂φ/∂x_μ から微分によって2階の共変テンソル


A_μν = (∂A_μ/∂x_ν) - {μν,τ}A_τ


を作ることができるということです。まさに共変微分ですが、アインシュタインはこのテンソル A_μν をテンソル A_μ の「拡大」と呼んでいます。さらに共変4ベクトル A_μ がスカラーの勾配として表されていない場合でも、この操作によって一つのテンソルが導かれることを示すことができると述べています。これをみるためにまず ψφ がスカラーであれば、ψ(∂φ/∂x_μ) がひとつの共変4ベクトルであることから始めます。もし


ψ^(1),φ^(1),ψ^(2),φ^(2),ψ^(3),φ^(3),ψ^(4),φ^(4)


がいずれもスカラーであれば、このような4つの項の和


S_μ = ψ^(1){∂φ^(1)/∂x_μ} + ψ^(2){∂φ^(2)/∂x_μ) + ψ^(3){∂φ^(3)/∂x_μ} + ψ^(4){∂φ^(4)/∂x_μ}


もまた一つの共変4ベクトルです。しかし任意の共変4ベクトルが S_μ の形に書き表すことができることは、次のようにしてわかります。一つ選ばれた座標系で、その各成分が x_ν の任意に与えられた関数であるような共変4ベクトル A_μ を S_μ の形に書くには、その座標系を用いて、


ψ^(1)=A_1,   φ^(1)=x_1


ψ^(2)=A_2,   φ^(2)=x_2


ψ^(3)=A_3,   φ^(3)=x_3


ψ^(4)=A_4,   φ^(4)=x_4


と置くと、


{∂φ^(ν)/∂x_μ}=(∂x_ν/∂x_μ)=δ_νμ


であることから


S_μ=ψ^(ν){∂φ^(ν)/∂x_μ}=A_ν(∂x_ν/∂x_μ)=A_νδ_νμ=A_μ


であることがわかります。つまりスカラーの勾配ではない任意の共変4ベクトルについても共変微分によって2階の共変テンソルを作ることができることを示すためには、S_μ の形の共変4ベクトルについて示せばよいことがわかります。そしてこの目的のためには


A_μ=ψ(∂φ/∂x_μ)


の形の共変4ベクトルについて、示せばよいことになります。


さて、φ をスカラーとすると、


(∂^2φ/∂x_μ∂x_ν) - {μν,τ}(∂φ/∂x_τ)


は共変テンソルで、ここにスカラー ψ を掛けた


ψ(∂^2φ/∂x_μ∂x_ν) - {μν,τ}ψ(∂φ/∂x_τ)


もまた2階の共変テンソルです。そして ψφ の勾配の外積


(∂ψ/∂x_μ)(∂φ/∂x_ν)


もまた2階の共変テンソルですから、テンソルの加法によって


(∂ψ/∂x_μ)(∂φ/∂x_ν)+ψ(∂^2φ/∂x_μ∂x_ν) - {μν,τ}ψ(∂φ/∂x_τ)


=(∂/∂x_μ){ψ(∂φ/∂x_ν)} - {μν,τ}ψ(∂φ/∂x_τ)


は2階の共変テンソルであり、


A_μ=ψ(∂φ/∂x_μ)


の拡大であることがわかります。これはまさに示したいことでした。従って、これらのことから任意の共変4ベクトル A_μ に対して


A_μν = (∂A_μ/∂x_ν) - {μν,τ}A_τ


は2階の共変テンソルであることが示されました。


 さて、アインシュタインは、この共変4ベクトルの拡大、つまり共変微分を用いて任意階数の共変テンソルの拡大、即ち共変微分を容易に定義することが可能であると述べています。この演算、つまり共変微分は共変4ベクトルの拡大の拡張であるというのです。これを2階のテンソルに限って以下に述べているのですが、これで十分に一つのテンソルから微分によって新しいテンソルを作るという法則の考え方をはっきりさせることができると述べています。


 既に上に見てきたように、2階の共変テンソルは二つの共変4ベクトルの外積 A_μB_ν のタイプのテンソルの和として表すことができます。例えば、任意の成分 A_11,A_12,A_13,A_14 をもった共変4ベクトルと、成分 1,0,0,0 をもった共変4ベクトルとの外積によって成分


A_11  A_12  A_13  A_14
 0    0    0    0
 0    0    0    0
 0    0    0    0


をもったテンソルを作り、このタイプの4つのテンソルを加え合わせることによって任意に指定した成分をもつテンソル A_μν を作ることができます。従って特殊なタイプのテンソル A_μB_ν の拡大に対する表現を導けば目的を達成することができます。共変4ベクトル A_μB_ν の拡大


(∂A_μ/∂x_σ) - {μσ,τ}A_τ,   (∂B_ν/∂x_σ) - {νσ,τ}B_τ


はそれぞれ2階の共変テンソルです。前者と B_ν の外積、後者のと A_μ の外積をとって、それぞれ3階の共変テンソルとなります。これらを加え合わせて、


(∂A_μ/∂x_σ)B_ν - {μσ,τ}A_τB_ν + A_μ(∂B_ν/∂x_σ) - {νσ,τ}A_μB_τ


= (∂A_μ/∂x_σ)B_ν + A_μ(∂B_ν/∂x_σ) - {μσ,τ}A_τB_ν - {νσ,τ}A_μB_τ


= {∂(A_μB_ν)/∂x_σ} - {μσ,τ}A_τB_ν - {νσ,τ}A_μB_τ


となりますから


A_μν = A_μB_ν


と置くと3階の共変テンソル


A_μνσ = (∂A_μν/∂x_σ) - {μσ,τ}A_τν - {νσ,τ}A_μτ


を得ます。この式の右辺は A_μν とその1階微分に関して、1次斉次式ですからテンソルを作るこの法則は A_μB_ν のタイプのテンソルの場合だけでなく、それらのテンソルの和の場合にも成り立つことがわかります。即ち2階の任意の共変テンソルの場合にも成り立つ法則を与えています。アインシュタインは、A_μνσA_μν の拡大と呼んでいます。


 振り返って、


A_μ = ∂φ/∂x_μ,   A_μν = (∂A_μ/∂x_ν) - {μν,τ}A_τ


が上で得た拡大の特別な場合、つまりそれぞれ階数0のテンソルと階数1のテンソルの拡大に関するものであることは明らかです。アインシュタインは、一般にはすべての階数の共変テンソルに対する法則は、今導出した


A_μνσ = (∂A_μν/∂x_σ) - {μσ,τ}A_τν - {νσ,τ}A_μτ


とテンソルの乗法を組み合わせた演算に含まれていると述べています。

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