1916年の論文「一般相対性理論の基礎」(その6)
前節では共変テンソルの共変微分について考察がなされました。反変テンソルや混合テンソルの共変微分については、次節で論じられているテンソル解析の中で述べられています。そこで第11節
11 特別な重要性をもったいくつかの場合
を読みます。アインシュタインは、この節でテンソルに関する種々の微分演算について考察していて、まず基本テンソルに関する補助定理について述るとしています。それは後によく用いることになる方程式で、まずそれらを証明すると述べています。
基本テンソル g_μν の行列式 g = det|g_μν| は基本テンソルの要素 g_μν の関数です。行列式 g の全微分
dg = (∂g/∂g_μν)dg_μν
を求めるためにの逆行列 g^μν の性質を利用します。ところで行列式 g は基本テンソルの要素 g_στ の関数ですが、任意の行または列の要素で展開が可能です。行列式 g の要素 g_ρλ の余因子を G_ρλ と書くと、例えば ρ 行について
g = ∑_λ g_ρλG_ρλ
と展開できます。従って
(∂g/∂g_στ) = ∑_λ {(∂g_ρλ/∂g_στ)G_ρλ + g_ρλ(∂G_ρλ/∂g_στ)}
となりますが、ρ 行についての展開はどの行でもよいので、σ 行に選ぶことができ
(∂g/∂g_στ) = ∑_λ {(∂g_σλ/∂g_στ)G_σλ + g_σλ(∂G_σλ/∂g_στ)}
となります。ここで
(∂g_σλ/∂g_στ) = δ_λτ
であり、行列式 g の要素 g_σλ の余因子を G_ρλ は σ 行の要素を含まないことから
(∂G_σλ/∂g_στ) = 0
であることに注意すると、
(∂g/∂g_στ) = G_στ
となります。ここで行列 g_μν の行列式 g の余因子行列の転置行列を g で除したものが逆行列 g^μν ですから、
G_στ = g g^τσ
と表すことができます。
dg = (∂g/∂g_στ)dg_στ = g g^τσ(dg_στ) = g g^στ(dg_στ)
ここで基本テンソル g_μν が対称テンソルであることを用いています。従って
dg = g g^μν(dg_μν)
です。一方、
g^σμg_σν = δ^μ_ν
をさらに μ と ν について縮約すると、
g^μνg_μν = 4
ですから全微分によって
g^μν(dg_μν) + (dg^μν)g_μν = 0
g^μν(dg_μν) = - g_μν(dg^μν)
となることがわかり
dg = g g^μν(dg_μν) = - g g_μν(dg^μν)
を得ます。
さてこれらのことから基本テンソルの微分について調べていきます。まず
(d/dx)log x = 1/x
ですから
{1/√(-g)}(∂/∂x_σ){√(-g)}
= [{d/d√(-g)}log √(-g)](∂/∂x_σ){√(-g)} = (∂/∂x_σ)log √(-g) = (1/2)(∂/∂x_σ)log (-g)
と計算されますが、
dg = - g g_μν(dg^μν)
d(-g)/(-g) = - g_μν(dg^μν)
d{log(-g)} = - g_μν(dg^μν)
(1/2)(∂/∂x_σ)log (-g) = - (1/2)g_μν(∂g^μν/∂x_σ) = - (1/2)g^μν(∂g_μν/∂x_σ)
即ち
{1/√(-g)}(∂/∂x_σ){√(-g)} = - (1/2)g_μν(∂g^μν/∂x_σ) = (1/2)g^μν(∂g_μν/∂x_σ)
を得ます。さらに
g_μσ g^νσ = δ^μ_ν
を微分して
g_μσ(dg^νσ) + (dg_μσ)g^νσ = 0
g_μσ(dg^νσ) = - g^νσ(dg_μσ)
g_μσ(∂g^νσ/x_λ) = - g^νσ(∂g_μσ/∂x_λ)
を得ます。これらからそれぞれ g^μλ および g^μτ との混合積を取ることで
g^μλg_μσ(dg^νσ) = - g^μλg^νσ(dg_μσ)
δ^λ_σ(dg^νσ) = - g^μλg^μσ(dg_νσ)
(dg^νλ) = - g^μλg^νσ(dg_μσ)
添字を書き換えて基本テンソル g_μν は対称テンソルであることに注意して
(dg^μν) = - g^μαg^νβ(dg_αβ),
そして、
g^μτg_μσ(∂g^νσ/x_λ) = - g^μτg^νσ(∂g_μσ/∂x_λ)
δ^τ_σ(∂g^νσ/x_λ) = - g^μτg^νσ(∂g_μσ/∂x_λ)
(∂g^ντ/x_λ) = - g^μτg^νσ(∂g_μσ/∂x_λ)
添字を書き換えて基本テンソル g_μν は対称テンソルであることに注意して
(∂g^μν/x_σ) = - g^μαg^νβ(∂g_αβ/∂x_σ)
を、また g_νλ および g_ντ との混合積を取ることで
g_νλg^νσ(dg_μσ) = - g_νλg_μσ(dg^νσ)
δ_λ^σ(dg_μσ) = - g_νλg_μσ(dg^νσ)
(dg_μλ) = - g_νλg_μσ(dg^νσ)
添字を書き換えて
(dg_μν) = - g_μαg_νβ(dg^αβ)
そして、
g_ντg^νσ(∂g_μσ/∂x_λ) = - g_ντg_μσ(∂g^νσ/x_λ)
δ_τ^σ(∂g_μσ/∂x_λ) = - g_ντg_μσ(∂g^νσ/x_λ)
(∂g_μτ/∂x_λ) = - g_ντg_μσ(∂g^νσ/x_λ)
添字を書き換えて基本テンソル g_μν が対称テンソルであることに注意して
(∂g_μν/∂x_σ) = - g_μαg_νβ(∂g^αβ/x_σ)
が得られます。ここでアインシュタインはクリストッフェルの3指標記号
[μν,σ] = (1/2){(∂g_μσ/∂x_ν) + (∂g_νσ/∂x_μ) - (∂g_μν/∂x_σ)}
について以下でしばしば利用される関係式を導いています。
[ασ,β] = (1/2){(∂g_αβ/∂x_σ) + (∂g_σβ/∂x_α) - (∂g_ασ/∂x_β)}
[βσ,α] = (1/2){(∂g_βα/∂x_σ) + (∂g_σα/∂x_β) - (∂g_βσ/∂x_α)}
の辺々を加え合わせると、基本テンソル g_μν の対称性から
(∂g_αβ/∂x_σ) = [ασ,β] + [βσ,α]
となりますが、上でも求めた
(∂g^μν/x_σ) = - g^μαg^νβ(∂g_αβ/∂x_σ)
を用いると
- g^μαg^νβ(∂g_αβ/∂x_σ) = - g^μαg^νβ[ασ,β] - g^μαg^νβ[βσ,α]
(∂g^αβ/∂x_σ) = - g^μα(g^νβ[ασ,β]) - g^νβ(g^μα[βσ,α])
となり
{μν,τ} = g^τσ[μν,σ]
を用いると
(∂g^αβ/∂x_σ) = - g^μα{ασ,ν} - g^νβ{βσ,μ}
を得ます。さらに
{1/√(-g)}(∂/∂x_σ){√(-g)}
= - (1/2)g_μν(dg^μν)
= - (1/2)g_μν[- g^μα{ασ,ν} - g^νβ{βσ,μ}]
= - (1/2)[- δ_ν^α{ασ,ν} - δ_μ^β{βσ,μ}]
= (1/2)[{ασ,α} + {βσ,β}]
従って、
{1/√(-g)}(∂/∂x_σ){√(-g)} = {μσ,μ}
を得ます。
アインシュタインは、次に反変ベクトルの発散について述べています。2階の共変テンソル
A_μν = (∂A_μ/∂x_ν) - {μν,τ}A_τ
と反変基本テンソル g^μν との内積
A_μνg^μν = g^μν(∂A_μ/∂x_ν) - {μν,τ}g^μνA_τ
を計算します。クリストッフェルの3指標記号の定義
[μν,σ] = (1/2){(∂g_μσ/∂x_ν) + (∂g_νσ/∂x_μ) - (∂g_μν/∂x_σ)}
{μν,τ} = g^τσ[μν,σ]
から
A_μνg^μν = g^μν(∂A_μ/∂x_ν) - g^τσ[μν,σ]g^μνA_τ
= g^μν(∂A_μ/∂x_ν) - (1/2)g^τσ{(∂g_μσ/∂x_ν) + (∂g_νσ/∂x_μ) - (∂g_μν/∂x_σ)}g^μνA_τ
= (∂/∂x_ν)g^μνA_μ - (∂g^μν/∂x_ν)A_μ - (1/2)g^τσ{(∂g_μσ/∂x_ν) + (∂g_νσ/∂x_μ) - (∂g_μν/∂x_σ)}g^μνA_τ
となりますが、
(∂g^μν/x_σ) = - g^μαg^νβ(∂g_αβ/∂x_σ)
により
(1/2)g^τσ{(∂g_μσ/∂x_ν) + (∂g_νσ/∂x_μ) - (∂g_μν/∂x_σ)}g^μνA_τ
= -(1/2)(∂g^ντ/∂x_ν)A_τ -(1/2)(∂g^μτ/∂x_μ)A_τ + (1/2)g^μν(∂g_μν/∂x_σ)g^τσA_τ
= -(∂g^ντ/∂x_ν)A_τ + (1/2)g^μν(∂g_μν/∂x_σ)g^τσA_τ
となることから、
A_μνg^μν = (∂/∂x_ν)g^μνA_μ - (1/2)g^μν(∂g_μν/∂x_σ)g^τσA_τ
とまとまります。さらに、
{1/√(-g)}(∂/∂x_σ){√(-g)} = - (1/2)g_μν(∂g^μν/∂x_σ)
より
A_μνg^μν = (∂/∂x_ν)g^μνA_μ + {1/√(-g)}{(∂/∂x_σ){√(-g)}g^τσA_τ
= (∂/∂x_ν)A^ν + {1/√(-g)}{(∂/∂x_σ){√(-g)}A^σ
= {1/√(-g)}[√(-g)(∂/∂x_ν)A^ν+ {(∂/∂x_σ){√(-g)}A^σ]
= {1/√(-g)}(∂/∂x_σ){√(-g)A^σ}
を得ます。テンソルの内積はスカラーで、A_μ を任意の共変4ベクトルとすれば、A^μ も任意の反変4ベクトルなので、このスカラー
Φ = {1/√(-g)}(∂/∂x_ν){√(-g)A^ν}
は反変4ベクトル A^ν の発散と定義できます。
続いてアインシュタインは、共変4ベクトルの回転について述べています。2階の共変テンソル
A_μν = (∂A_μ/∂x_ν) - {μν,τ}A_τ
において、
{μν,τ} = (1/2)g^τσ{(∂g_μσ/∂x_ν) + (∂g_νσ/∂x_μ) - (∂g_μν/∂x_σ)}
は添字 μ と ν の入れ替えに対して対称であることから、
B_μν = A_μν - A_νμ = (∂A_μ/∂x_ν) - (∂A_ν/∂x_μ)
は2階の共変交代テンソルで、共変4ベクトル A_μ の回転と定義できます。
アインシュタインは、6ベクトルの交代拡大について述べています。2階の共変交代テンソル A_μν の拡大
A_μνσ = (∂A_μν/∂x_σ) - {μσ,τ}A_τν - {νσ,τ}A_μτ
について、添字 μ,ν,σ を循環的に入れ替えて
A_νσμ = (∂A_νσ/∂x_μ) - {νμ,τ}A_τσ - {σμ,τ}A_ντ
A_σμν = (∂A_σμ/∂x_ν) - {σν,τ}A_τμ - {μν,τ}A_στ
これらを加え合わせて、3階のテンソル
B_μνσ = A_μνσ + A_νσμ + A_σμν
を作ると、交代テンソル A_μν と
{μν,τ} = {νμ,τ}
の性質を用いて
B_μνσ = [(∂A_μν/∂x_σ) - {μσ,τ}A_τν - {νσ,τ}A_μτ]
+ [(∂A_νσ/∂x_μ) - {νμ,τ}A_τσ - {σμ,τ}A_ντ]
+ [(∂A_σμ/∂x_ν) - {σν,τ}A_τμ - {μν,τ}A_στ]
= (∂A_μν/∂x_σ) + (∂A_νσ/∂x_μ) + (∂A_σμ/∂x_ν)
- {μσ,τ}A_τν - {σμ,τ}A_ντ - {νσ,τ}A_μτ - {σν,τ}A_τμ
- {νμ,τ}A_τσ - {μν,τ}A_στ
= (∂A_μν/∂x_σ) + (∂A_νσ/∂x_μ) + (∂A_σμ/∂x_ν)
を得ます。これが交代であることは容易にわかります。μ と ν の入れ替えについて調べると、
B_νμσ = (∂A_νμ/∂x_σ) + (∂A_μσ/∂x_ν) + (∂A_σν/∂x_μ)
= -(∂A_μν/∂x_σ) - (∂A_νσ/∂x_μ) - (∂A_σμ/∂x_ν)
= ー B_μνσ
であることかわらかります。残りの入れ替えについても添字 μ,ν,σ が循環的に入れ替えられていることから、同様です。
長くなりそうなのでこのあたりで一段落とし、反変テンソルの共変微分については次回に投稿したいと思います。