1905 年の論文「運動物体の電気力学」 B 電気力学の部(その11)
標記論文の B 電気力学の部
10 (ゆっくり加速された)電子の力学
という節を読みます。
アインシュタインはこの論文の序論で、静止系 K 系として、ニュートンの力学方程式が成り立つ座標系を仮定していました。今、電荷 ε を帯びた電子が、電磁場の中を運動しているとします。そこで静止系 K 系に電子が静止しているとき、次の瞬間に電場 (X,Y,Z) からの作用でおこる運動、つまり初期時刻の近傍での運動はニュートンの運動方程式
μ(d^2x/dt^2)=εX, μ(d^2y/dt^2)=εY, μ(d^2z/dt^2)=εZ
に従うとして、これだけを運動法則として考察を進めています。ここで、x,y,z は電子の空間座標を表し、μ は電子がゆっくり運動する場合の慣性質量を表しています。そうしてある瞬間に電子の速度が、v になったとします。そしてその直後に電子が行う運動の法則を調べることにします。
電子が上のニュートンの運動方程式に従い、加速されて速度 v を得たとき、その位置は静止系 K 系の空間座標原点にあり、運動方向が X 軸の正の方向であるとしても一般性を失うことがないのは明らかです。そこで電子が速度 v に達した瞬間を静止系 K 系の時刻 t = 0 に選ぶことにします。
さて、この電子ですが、静止系 K 系の X 軸に平行いて速度 v で移動している運動系 k 系に対しては静止していることになります。この節の初めに電子に対してニュートンの運動方程式を仮定しましたが、相対性原理に従えば、電子が静止系 K 系に対して速度 v に達した次の瞬間に起こる運動、つまり時刻 τ = 0 の近傍での運動を運動系 k 系で見れば、やはりニュートンの運動方程式
μ(d^2ξ/dτ^2)=εX', μ(d^2η/dτ^2)=εY', μ(d^2ζ/dτ^2)=εZ'
に従って運動することになります。ここで記号 (ξ,η,ζ,τ) は運動系 k 系に関する空間座標と時刻、(X',Y',Z') は運動系 k 系に関する電場です。そして、静止系 K 系と運動系 k 系で、x = y = z = 0,t = 0 のとき、ξ = η = ζ = 0,τ= 0 であるとすると、第3節と第6節で明らかになった変換式を使うことができるので、
τ = β{t - (v/V^2)x}, ξ = β(x - vt), η = y, ζ = z
および
X'=X, Y'=Y - (v/V)N, Z'=Z + (v/V)M
と関係づけられることになります。これによって運動系 k 系で書き下されたニュートンの運動方程式を静止系 K 系に変換します。このとき注意しなければならないことは、電磁場の変換式が時間座標と時刻が独立変数であるとして変数変換によって導かれたものであるということです。なので運動方程式の右辺は電子がある時刻に占める空間座標値での電磁場によって書き換えができるのに対して、運動方程式の左辺は、(ξ,η,ζ) が τ の関数であり、(x,y,z) が t の関数であることから、書き換えには速度と加速度の変換式が必要となります。そこで座標変換式を独立変数と従属変数、つまり関数値の関係式とみて、それぞれの導関数値の関係式を求めることにします。
静止系 K 系において電子は軌道 {x(t),y(t),z(t)} に沿って運動しますから、その速度は
ux = dx/dt, uy = dy/dt, uz = dz/dt
です。そこで座標変換式ですべてが時刻 t の関数であるとして
τ = β{t - (v/V^2)x}, ξ = β(x - vt), η = y, ζ = z
を t で微分します。
dτ/dt = β{1 - (v/V^2)ux}, dξ/dt = β(ux - v), dη/dt = uy, dζ/dt = uz
そして
uξ = dξ/dτ, uη = dη/dτ, uζ = dζ/dτ
とおくと、導関数値の関係
uξ = (dξ/dt)/(dτ/dt) = (ux - v)/{1 - (vux/V^2)}
uη = (dη/dt)/(dτ/dt) = uy/β{1 - (vux/V^2)}
uζ = (dζ/dt)/(dτ/dt) = uz/β{1 - (vux/V^2)}
が得られます。これは
9 マックスウェル-ヘルツ方程式の変換.対流電流を考慮した場合
で見出された静止系 K 系での速度 (ux,uy,uz) を運動系 k 系に変換して得られる速度 (uξ,uη,uζ) に一致しています。
次に速度の導関数値、つまり加速度の関係式を求めます。
uξ/dt = [(dux/dt){1 - (vux/V^2)} + (ux - v)(v/V^2)(dux/dt)]/{1 - (vux/V^2)}^2
uη/dt = [(duy/dt)β{1 - (vux/V^2)} + uy(v/V^2)(dux/dt)]/β^2{1 - (vux/V^2)}^2
uζ/dt = [(duz/dt)β{1 - (vux/V^2)} + uz(v/V^2)(dux/dt)]/β^2{1 - (vux/V^2)}^2
ですから
d^2ξ/dτ^2 = duξ/dτ = (duξ/dt)/(dτ/dt)
= [(dux/dt){1 - (vux/V^2)} + (ux - v)(v/V^2)(dux/dt)]/β{1 - (vux/V^2)}^3
= {(dux/dt) - (vux/V^2)(dux/dt) + (vux/V^2)(dux/dt) - (v/V)^2(dux/dt)}/β{1 - (vux/V^2)}^3
= {1 - (v/V)^2}(dux/dt)/β{1 - (vux/V^2)}^3
= (dux/dt)/β^3{1 - (vux/V^2)}^3,
d^2η/dτ^2 = duη/dτ = (duη/dt)/(dτ/dt)
= [(duy/dt)β{1 - (vux/V^2)} + uy(v/V^2)(dux/dt)]/β^3{1 - (vux/V^2)}^3
= (duy/dt)/β^2{1 - (vux/V^2)}^2 + (vuy/V^2)(dux/dt)/β^3{1 - (vux/V^2)}^3,
d^2ζ/dτ^2 = duζ/dτ = (duζ/dt)/(dτ/dt)
= [(duz/dt)β{1 - (vux/V^2)} + uz(v/V^2)(dux/dt)]/β^3{1 - (vux/V^2)}^3
= (duz/dt)/β^2{1 - (vux/V^2)}^2 + (vuz/V^2)(dux/dt)/β^3{1 - (vux/V^2)}^3
という形式を得ます。
以上の結果を用いて、運動系 k 系で時刻 τ = 0 の近傍で書き下されたニュートンの運動方程式を、静止系 K 系の時刻 t = 0 の近傍に変換します。静止系 K 系の時刻 t = 0 の近傍において電子の速度 (ux,uy,uz) は (v,0,0) ですから、
d^2ξ/dτ^2 = (dux/dt)/β^3{1 - (v/V)^2}^3 = β^3(dux/dt) = β^3(d^2x/dt^2)
d^2η/dτ^2 = (duy/dt)/β^2{1 - (v/V)^2}^2 = β^2(duy/dt) = β^2(d^2y/dt^2)
d^2η/dτ^2 = (duz/dt)/β^2{1 - (v/V)^2}^2 = β^2(duz/dt) = β^2(d^2y/dt^2)
となり、ニュートンの運動方程式は
μβ^3(d^2x/dt^2) = εX
μβ^2(d^2y/dt^2) = εβ{Y - (v/V)N}
μβ^2(d^2y/dt^2) = εβ{Z + (v/V)M}
即ち
d^2x/dt^2 = εX/μβ^3
d^2y/dt^2 = ε{Y - (v/V)N}/μβ
d^2y/dt^2 = ε{Z + (v/V)M}/μβ
と変換されることがわかります。
ここでアインシュタインは興味深い考察をしています。それは運動している電子の慣性質量についてのもので、
“縦質量”と“横質量”
という考え方です。アインシュタインは静止系 K 系に変換された運動方程式を改めて
μβ^3d^2x/dt^2 = εX = εX'
μβd^2y/dt^2 = ε{Y - (v/V)N} = εY'
μβd^2y/dt^2 = ε{Z + (v/V)M} = εZ'
と表し、(εX',εY',εZ') は電子と同じ移動している座標系、運動系 k 系から見た時刻 τ = 0 の瞬間に電子に働く動重力の成分であることに注意すると電荷に働く静電気力なので、運動系 k 系に静止しているバネばかりのような計測器を使って測定できる電子に働く力です。上記のニュートンの運動方程式で
(質量)×(加速度)=(力)
という関係が成り立つので、静止系 K 系で加速度が測定できれば、電子の慣性質量が求まります。アインシュタインは上記運動方程式の1本目の式から、
縦質量 = μβ^3 = μ/[{1 - (v/V)^2}]^3
2本目、3本目の式から
横質量 = μβ^2 = μ/[{1 - (v/V)^2}]^2 = μ/{1 - (v/V)^2}
を定義しました。現代では荷電粒子に働く力はローレンツの力であり、電場の方向に加速されるときの電子の慣性質量と、磁場の方向に加速される運動する電子の慣性質量が異なっているという主張になります。しかしこの慣性質量は電子の静止状態での瞬間的なものなので、電子が加速された後、力が変化し、縦質量と横質量の値も変化することになります。アインシュタインはこのことから、電子の運動に関するさまざまな理論を比較するときは注意を要することを指摘しています。
アインシュタインは質量に関する以上の結果は重さのある質点について成り立つことを指摘しています。何故なら重さのある質点は導体であれ誘電体であれ任意に小さな電荷を帯電させることによって荷電粒子になり前述の議論の結果が従うからです。
そしてアインシュタインの考察は、次に電子の運動エネルギーへと進みますが、これについては次回の投稿に譲ります。