1916年の論文「一般相対性理論の基礎」(その11)
物質がない場合の重力場に関する議論を終えたアインシュタインは次にこの理論を物質がある場合へと拡張します。そこで第16節
16 重力の場の方程式の一般形
を読みます。アインシュタインは、、第15節で定式化された物質のない空間での重力場の方程式は、ニュートンの重力理論の重力場の方程式
▽^2φ = 0
に相当するものであることを指摘した上で、これから求めようとする方程式は、ちょうどラプラス・ポアソンの方程式
▽^2φ = 4πχρ
に対応する方程式であると述べています。
アインシュタインは特殊相対性理論を展開する中で、慣性質量がエネルギーに他ならないことを導きました。そしてこのエネルギーの完全な数学的表現を2階の対称テンソル、エネルギーテンソル T^α_σ として見出していました。一般相対性理論においてはこのテンソルは重力場のエネルギー成分 t^α_σ のように混合テンソルですが、しかし対称共変テンソルに属するもので、
g_ατT^α_σ = T_τσ, g^σβT^α_σ = T^αβ
は、対称テンソルです。
前節の最後に得られた物質のない場合の重力場の連立方程式
(∂μ/∂x_ν)(g^αβΓ^α_μβ) = -κ(t^σ_μ - δ^σ_μ t), √(-g) = 1
は、重力場の方程式の中に、ポアソンの方程式の中の密度 ρ に対応するこのエネルギーテンソルがどのように導入されるべきかを示していると考えられます。何故ならもし太陽系のような体系全体を考える場合には、この体系の全体の質量、従ってこの体系全体の重力的作用もこの体系の全エネルギーに関係することになります。従って重力エネルギーとともに物質エネルギーも関係するであろうと考えられます。これは重力場だけのエネルギー成分 t^σ_μ の代わりに、物質のエネルギー成分と重力場のエネルギー成分の和 T^σ_μ + t^σ_μ を前節の最後で導いた式に導入することで可能になります。こうして最終的にテンソル方程式
(∂/∂x_α)(g^σβT^α_μβ) = - κ{(T^σ_μ + t^σ_μ)-(1/2)δ^σ_μ(t + T)}, √(-g) = 1
を得ます。ここでラウエのスカラーとして
T = T^μ_μ
と置いています。これらが求める一般の重力場の、混合テンソルで書かれた方程式です。この方程式の導出経緯を逆に辿っていくことによって、物質がない場合の重力場の方程式の代わりに
(∂/∂x_α)Γ^α_μν + Γ^α_μβΓ^β_να = - χ{(T_μν - (1/2)g_μνT)}, √(-g) = 1
を得ます。
アインシュタインは、物質のエネルギーテンソルの導入は相対性理論の仮定だけによっては正当化されないことを認めなければならないと述べています。この理由から、重力場のエネルギーはその他のすべてのエネルギーと同様に重力的に働くべきであるという要請をおいて一般の重力場の方程式を導きました。
このことは第17節で示すと述べていますので、次に第17節にすすみます。
17 一般の場合の保存法則
物質がある場合の重力場の方程式
(∂/∂x_α)(g^σβT^α_μβ) = - κ{(T^σ_μ + t^σ_μ)-(1/2)δ^σ_μ(t + T)}, √(-g) = 1
は、右辺の第2項が消えてしまうように変形することができます。指標μとσに関して縮約し、そこに (1/2)δ^σ_μ を掛けて上の重力場の方程式から引けば、
(∂/∂x_α){g^σβΓ^α_μβ - (1/2)δ^σ_μg^λβΓ^α_λβ} = χ(t^σ_μ + T^σ_μ)
が与えられます。この方程式にさらに微分演算 (∂/∂x_σ) を施すと、
(∂^2/∂x_α∂x_σ)g^σβΓ^α_μβ
= - (1/2)(∂^2/∂x_α∂x_σ)[g^σβg^αλ{(∂g_μλ/∂x_β) + (∂g_βλ/∂x_μ) - (∂g_μβ/∂x_λ)}]
を得ます。中括弧{ }内の第1項と第3項から得られる量は互いに消しあってしまいます。実際第3項から計算される項はダミーインデックスを
-g^σβg^αλ(∂g_μβ/∂x_λ)=-g^σλg^αβ(∂g_μλ/∂x_β)
と書き換えて微分すれば
(∂^2/∂x_α∂x_σ){-g^σλg^αβ(∂g_μλ/∂x_β)}=(∂^2/∂x_σ∂x_α){-g^αλg^σβ(∂g_μλ/∂x_β)}
となるので、βとλを書き換えることで、第1項から計算される量と符号だけ異なることがわかります。中括弧{ }内の第2項は基本テンソルの補助定理
∂g^μν/∂x_σ = -g^μαg^νβ(∂g_αβ/∂x_σ)
によって
(∂^2/∂x_α∂x_σ)(g^σβΓ^α_μβ)=(∂^3g^αβ/∂x_α∂x_β∂x_μ)
と計算されます。
次に方程式
(∂/∂x_α){g^σβΓ^α_μβ - (1/2)δ^σ_μg^λβΓ^α_λβ} = - χ(t^σ_μ + T^σ_μ)
の左辺の第2項は、
-(1/2)(∂^2/∂x_α∂x_μ)(g^λβΓ^α_λβ)
即ち
(1/4)(∂^2/∂x_α∂x_μ)[g^λβg^αδ{(∂g_δλ/∂x_β)+(∂g_δβ/∂x_λ)-(∂g_λβ/∂x_δ)}]
を与えます。ここでいつも行っているような座標系の選択を行えば、中括弧{ }内の第3項から計算される項は
(1/√-g)(∂√-g/∂x_σ)=(1/2){∂log(-g)/∂x_σ}=(1/2)g^μν(∂g_μν/∂x_σ)=(1/2)g_μν(∂g^μν/∂x_σ)
によって消えてしまうことがわかります。また、中括弧{ }内の第1項と第2項から計算される項は
∂g^μν/∂x_σ= - g^μαg^νβ(∂g_αβ/∂x_σ)
によってひとつにまとめることができて、
-(1/2)(∂^3g^αβ/∂x_α∂x_β∂x_μ)
となります。従って
(∂^2/∂x_α∂x_σ)(g^σβΓ^α_μβ) = (1/2)(∂^3g^αβ/∂x_α∂x_β∂x_μ)
を考慮すれば、恒等式
(∂^2/∂x_α∂x_σ){g^σβΓ^α_μβ - (1/2)δ^σ_μg^λβΓ^α_λβ} = 0
を得ます。この恒等式と、
(∂/∂x_α){g^σβΓ^α_μβ - (1/2)δ^σ_μg^λβΓ^α_λβ} = - χ(t^σ_μ + T^σ_μ)
から
∂(t^σ_μ + T^σ_μ)/∂x_σ=0
であることがわかります。
こうして物質がある場合の重力場の方程式から、重力場と物質の全体のエネルギー運動量の保存法則が導かれました。アインシュタインはまた、この法則は、ハミルトンの変分原理
δ∫Hdτ=0, H=g^μνΓ^α_μβΓ^β_να, √(-g) = 1
の結果から
(d/dx_4)∫t^4_σdV=∫(lt^1_σ + mt^2_σ + nt^3_σ)dS
を導いたときの考察が、最も容易に導かれるものであろうと述べてます。ただしここでは、重力場のエネルギー成分 t^μ_σ の代わりに質量、即ち物質と重力場の全体のエネルギー成分 T^μ_σ + t^μ_σ を用いるべきであると注意を述べています。
アインシュタインは次節でさらに重力場の方程式とエネルギー運動量の保存則についての考察を深めていきます。