アルベルト・アインシュタインの論文を読む

アインシュタインの論文に関する独断と偏見に満ちた読後報告です。

1916年の論文「一般相対性理論の基礎」(その3)

 アインシュタインは一般共変性の要請を定式化するために数学を準備し始めます。

B 一般的な共変方程式の形成に対する数学的補助手段

を読みます。一般相対性の仮定は私たちに、物理学の方程式は座標 x_1,x_2,x_3,x_4 の任意の変換に対して共変であるべきであるという要請に導くことを見てきました。そこで次に、どの程度一般な共変方程式を見出しうるのかということを考えることにします。これは必然的に、物理学的というよりは数学的な研究へと進むことを意味します。アインシュタインはこの回答を得るために、ガウスの局面論から言葉を借りて「線素」と呼んだもの


ds^2 = ∑_σ∑_τ g_στ dx_σdx_τ


が座標変換の不変量として基本的な役割を演じることを見ることになるだろうと述べています。


 これから構築しようとする共変量の一般理論の基本的な考え方は次のようなものです。理論の考察対象であるテンソルが、そのテンソルの「成分」と呼ばれるいくつかの座標の関数として、任意の座標変換に関して定義されているとします。つまり、テンソルの成分が旧座標系に関して知られていて、かつ新旧二つの座標系を結ぶ変換が知られているときに、ある規則が存在していて、それに従えば、新座標系に関するこのテンソルの新しい成分が計算できるということです。ここで考察対象である「テンソル」を以下の事実によって特徴づけることにします。即ち、それらテンソルの変換方程式は、1次でしかも斉次であるとします。従ってもしそれらが球座標系ですべてゼロになるならば、新座標系におけるそれらの成分もゼロになることになります。もし一つの物理法則が一つのテンソルのすべての成分がゼロと置いた式で表されるならば、その式は一般に共変になります。これを踏まえてアインシュタインは、テンソルを形成する規則を調べることによって一般窯変法則を形成する手段を知ることになると述べています。


 そこで第5節

5 反変および共変四ベクトル

を読みます。アインシュタインはまず反変4ベクトルについて述べています。上に挙げた線素は4つの成分 dx_ν で定義されていてそれに対する変換法則は、方程式


dx'_σ = ∑_σ (∂x'_σ/∂x_ν) dx_ν


で表されます。つまり dx'_ν は、dx_ν の一次斉次関数で表されることがわかります。そこでこれらの座標の微分を特殊な種類の「テンソル」の成分であると見做し、反変4ベクトルと呼びます。座標系に関して4つの成分 A^ν で定義されて、同じ変換法則


A^σ = ∑_σ (∂x'_σ/∂x_ν) A^ν


で変換されるすべての対称を同様に反変4ベクトルと呼びます。この方程式の線形性から直ちに、もし A^ν と B^ν が反変4ベクトルの成分であれば、


A^ν ± B^ν


もまた反変4ベクトルであることがあわかります。これに対応する関係はいかに導入されるすべての「テンソル」に対しても成り立つことは明らかです。これをテンソルの加法と減法の規則と呼びます。


 アインシュタインは次に共変4ベクトルについて述べています。反変4ベクトル B^ν を任意に選んだとき、


∑_ν A_ν B^ν


が座標変換に対して不変であったならば、4つの量 A_ν を一つの共変4ベクトルの成分と呼びます。共変4ベクトルの変換法則はこの定義から導かれます。座標変換に対して


∑_σ A'_σ B'^σ = ∑_ν A_ν B^ν


であったとすると、


B'^σ = ∑_σ (∂x'_σ/∂x_ν) B^ν


において


∑_σ (∂x_ν/∂x'_σ)(∂x'_σ/∂x_ρ) = (∂x_ν/∂x_ρ) = δ_νρ


であることを用いて逆に解いた


B^ν = ∑_σ (∂x_ν/∂x'_σ) B'^σ


で置き換えることによって


∑_σ A'_σ B'^σ = ∑_ν A_ν{∑_σ (∂x_ν/∂x'_σ) B'^σ} = ∑_σ{∑_ν(∂x_ν/∂x'_σ) A_ν} B'^σ


となりますが、この方程式は B'^σ の任意の値について成り立つことから、変換法則は


A'_σ = ∑_ν(∂x_ν/∂x'_σ) A_ν


であることがわかります。


ここでアインシュタインは式の簡略化について注意を与えています。これが有名なアインシュタインの規約です。ここで上の方程式を一見すると、総和記号 ∑ の中の項で2回現れる添字に関してはいつも総和が取られており、しかも2回現れる添字に関してだけ総和が取られていることがわかります。従って明瞭さを欠くことなく、総和の記号を省略することが可能です。そこで次の規約を導入することになります。それは数式中の一つの項内に一つの添字か2度現れたならば、ほかの断り書きがない限り、その添字についていつも総和を取るものとするというものです。


 共変4ベクトルと反変4ベクトルの違いは、その変換法則の違いにあります。即ち線形変換としては ∂x_ν/∂x'_σ に従って変換するか、∂x_ν/∂x'_σ に従って変換するかの違いです。この二つのベクトルはいずれも上に与えた一般的注意の意味でテンソルであるといえます。これこそが重要なことであるとアインシュタインは述べています。絶対微分学の理論を展開したリッチとレビチビタに従って、以後、添字を上に置くことで反変性を、下に置くことで共変性を示すことにします。


 続けて第6節

6 二階、および高階のテンソル

を読みます。アインシュタインはまず反変テンソルについて述べています。二つの反変4ベクトルの成分 A^μB^ν の成分同士のすべての16個の積


A^μν = A^μB^ν


を作れば A^μν は反変4ベクトルの変換規則に従って


A'^στ = (∂x'_σ/∂x_μ)(∂x'_τ/∂x_ν) A^μν


を満足します。ここからはアインシュタインの総和に関する規約を用います。


 このように任意の座標系に関して、16個の量で定義され、それらが上の変換法則を満足するものを2階の反変テンソルと呼びます。もちろん任意のこのようなテンソルが、二つの反変ベクトルから作られるとは限りませんが、任意に与えられた16個の A^μν が、反変4ベクトルを適当に選んで作った4つの組の A^μB^ν の和の形に表しうることが容易に示されますと述べられていますが、しかし今は変換性だけを問題にしているのでこのことには触れないでおきます。このことから変換法則によって定義される2階の反変テンソルに対して成立するほとんどすべての法則は、二つの反変4ベクトルから作られるタイプの特殊なテンソルに対して証明することで、最も簡単に証明できることになります。


 次に任意の階数の反変テンソルについて述べられています。二つの反変4ベクトルから作られた量の変換法則に従う2階の反変テンソルを拡張してより高階の反変テンソルを定義できることは明らかです。このとき s 階の反変テンソルは 4^s 個の成分を持ちます。全く同様に考えると逆に反変4ベクトルは1階の反変テンソルであることがわかります。


 続いて共変テンソルについて述べられています。反変テンソル同様に、他方、二つの共変4ベクトルの成分 A_μB_ν の成分同士のすべての16個の積


A_μν = A_μB_ν


を作れば、A_μν は共変4ベクトルの変換規則に従って。


A'_στ = (∂x_μ/∂x'_σ)(∂x_ν/∂x'_τ) A_μν


を満足します。そしてこの変換法則は2階の共変テンソルを定義することになります。さらに反変テンソルに対して上で述べた注意はすべて、共変テンソルに対して当てはまることは明らかです。


 さてここでアインシュタインは変換の不変量であるスカラーを、階数ゼロの反変テンソル、そしてまた共変テンソルの両方として取り扱うのが便利であると注意を与えています。


 そして次に混合テンソルについて述べています。反変テンソルでも共変テンソルでもない


A_μ^ν = A_μB^ν


というタイプの2階のテンソルを定義することもできます。これはその変換法則が、添字 μ に関しては共変であり、添字 ν に関しては反変であるようなテンソルです。つまりその変換法則は、


A'_σ^τ = (∂x'_τ/∂x_ν)(∂x_μ/∂x'_σ) A_μ


を満たします。さらにはもちろん任意個数の共変性の添字と任意個数の反変性の添字をもった混合テンソルも存在します。従って、共変テンソルと反変テンソルは混合テンソルの特別な場合であるとみなすことができます。


 ここでアインシュタインは4次元空間での対称テンソルと交代テンソルについて注意を与えています。2階または高階の反変または共変テンソルを考えます。二つの添字を交換して一方から他方の成分が得られるとき、対称であるといいます。つまり、テンソル A^μν または A_μν がもし添字 μν の任意の組み合わせに対してそれぞれ


A^μν = A^νμ


または


A_μν = A_νμ


であるとき、対称であるといわれます。このように定義された対称性は座標系と無関係でであることを証明します。反変テンソルについては変換法則


A'^στ = (∂x'_σ/∂x_μ)(∂x'_τ/∂x_ν) A^μν


から


A'^στ = (∂x'_σ/∂x_μ)(∂x'_τ/∂x_ν) A^νμ = (∂x'_τ/∂x_ν)(∂x'_σ/∂x_μ) A^νμ = A'^τσ


であることがわかります。総和添字 μν の交換は単に記法での添字の書き換えからわかります。共変テンソルについても同じことが言えるのは明らかです。


 次に、2階、3階または4階の反変または共変テンソルを考えます。二つの添字を交換して一方から他方の成分が絶対値が等しく符号が反対のとき、交代であるといいます。つまり、テンソル A^μν または A_μν がもし添字 μν の任意の組み合わせに対してそれぞれ


A^μν = -A^νμ


または


A_μν = -A_νμ


であるとき、交代であるといわれます。この場合、16個の成分のうち、4つの成分 A^μμ または A_μμ はゼロになります。残りの12個の成分は、二つずつ絶対値が等しく符号が反対なので、6個の成分だけが数値的に異なることになります。6ベクトルとでもいうべき量です。もう少し系統的に成分数を評価すると、ゼロでない成分は添え字が等しくない成分なので、その成分数は2階のテンソルの場合、4個のものから異なる2個をとって並べる順列で数えることができて、4×3 = 12 個であることがわかります。しかし、添字 μν についてはその隅置換と奇置換で2組あり、符号が異なっていることから、数値的に異なっている成分の数は、12 ÷ 2 = 6 個と求めることができます。同様に考えると、3階の交代テンソル A^μνσ の場合は、4個のものから異なる3個をとって並べる順列で数えることができて、4×3×2 = 24 個であり、添字 μνσ の組についてはその隅置換と奇置換で 3×2 = 6 組あり、符号が異なっていることから、数値的に異なっている成分の数は 、24 ÷ 6 = 4 個で4ベクトルとでもいうべき量です。さらに4階のテンソル A^μνστ の場合は、4個のものをとって並べる順列で数えることができますが、添字の組については隅置換と奇置換しかなく、数値的に異なっている成分の数は 1 個であることがわかります。アインシュタインは最後に4次元連続体では、4階より高い階数の交代テンソルは存在しないと述べています。

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