アルベルト・アインシュタインの論文を読む

アインシュタインの論文に関する独断と偏見に満ちた読後報告です。

1911年の論文「重力の光の伝搬への影響について」(その1)

 本ブログ開設の当初の目的は筑摩書房の書籍


アインシュタイン論文選「奇跡の年」の5論文
アルベルト・アインシュタイン 著
ジョン・スタチェル 編  青木薫 訳
筑摩書房(ちくま学芸文庫) 2011年


に訳出されているアインシュタインが1905年に発表した論文の一部を読んでその読後報告を書くためでした。そして結果的にこの書籍にあった5本の論文を全て読んでしまいました。ですが振り返って、アインシュタインの論文を読んだというよりは、論文を手掛かりにして初等的な数学の計算をしたというのが正直なところであろうと思います。しかし、一方で私自身がこの作業に嵌ってしまったことも否定できません。何故こんな面倒なことをとも思うのですが、正直論文の論旨を理解できなくても、ついつい鉛筆を持ってしまいます。


 そこで改めて書棚を見てみると、


人類の知的遺産68
アインシュタイン
矢野健太郎 著
講談社 1978年


がありました。この中のには今まで読んできた、特殊相対性理論に関する論文、光量子仮説に関する論文、ブラウン運動に関する論文の他に、一般相対性理論に関する論文や統一場に関する論文が訳出されていました。縦書きで数式など読みづらいところもあるのですが、何故か読めそうな気がしました。多分傲りだと思います。


 そこでさらに暴挙に出ることにしました。もしかしたらこれらの論文も読めるかもしれないと思いあがってしまったのです。思いついたことはすぐにやってみて、もし駄目だったらなかったことにして、次を模索する。そして千三つで当たればよしとする。これが正しい勉学姿勢だとかつて教わりました。出来の悪い弟子ほど師の教えを実直に守るものです。余談がおびただしく増えることは明らかですが、とりあえず前に出る素人の特権で読んでいきたいと思います。


 まず上記書籍に訳出されていた、標記論文

重力の光の伝搬への影響について

を読むことにします。まずは序文から読んでいきます。


 標記論文は1911年に発表されたものですが、それから遡ること4年、アインシュタインは1907年に発表した論文

相対性原理とそれから導かれる結論

において

光の伝搬が重力によって影響を受けるか

という質問に答えることを試みたと述懐しています。そして改めて今この問題に立ち戻ると述べています。その理由は、アインシュタイン自身がこの問題の説明、即ち1907年の論文の内容に満足していないことであり、さらにより強い理由は、1907年の論文の最も重要な結論の一つが、実験的に検証可能だということが後に分かったからだと述懐しています。そしてその根拠として


『太陽の非常に近くを通過する光線は、その重力場によって偏向を受け、したがって太陽とその近くに現れる恒星の間の視角距離は、見かけ上、1秒近くも増加する』


ことが、この論文で以下に展開する理論から示されるからだと述べています。これらの考察の途中で、重力に関係のあるその他の結果も得られたそうですが、これらの考察の全容の解説はむしろ解り難いのだそうで、従ってアインシュタインは、以下では全く初等的な考察だけを与えることにするが、それでも読者は十分にこの理論の仮定とその考えの流れを理解することができるだろうと述べています。そして、ここで導かれた関係式は理論的な基礎が確立されたものであるが、第一近似においてのみ成り立つものであるという注意を与えています。


 次に第1節

1 重力場の物理的性格に関する仮定

を読みます。アインシュタインはここで一様な重力場の中にしつらえられた座標系と重力場のない中で一様な加速度運動をする座標系で記述される運動学を考察しています。


 重力加速度が γ であるような一様な重力場を考えます。そしてここに重力場の力線が z 軸の負の方向へ向かうように向きのつけられた定常な座標系 K があるとします。さらに重力場のない空間において z 軸の正の方向へ一様な加速度 γ で運動している第二の座標系 K' があるとします。アインシュタインは、て無用の複雑化を避けるために、差し当たって相対性理論を無視し、特殊相対性理論以前の運動学の見地から眺めてこのふたつの座標系で起こる運動を力学的に考察しました。


 他の質点からの作用を受けていない一つの質点 ν についての運動方程式は、K 系に関しても、K' 系に関しても


d^2x_ν/dt^2 = 0,   d^2y_ν/dt^2 = 0,   d^2z_ν/dt^2 = -γ


を満たすことを指摘しました。この質点は、K 系では z 軸の負の方向に一様な重力を受け、K' 系では z 軸の負の方向に加速度系特有の慣性力を受けるからです。アインシュタインはこの慣性力が生じることをガリレオの原理と称しています。そして重力場の中ではすべての物体が同様の落下を示すという経験は、自然観測が私たちに与えた最も普遍的なものの一つであることを指摘しました。咥えて、それにもかかわらず、この法則は物理学的宇宙に関する我々の理論の基礎、即ち相対性理論の基礎の中に今まで何らの揺るぎない確かな地位を占めてはいないことも指摘しています。確かに特殊相対性理論は、重力相互作用を考えに入れずに構築されています。


 しかし、もし座標系 KK' とは物理学的に全く同等である仮定するならば、即ち、座標系 K 系が重力場のない空間にあって、一様に加速されている座標系であると考えることができると仮定すれば、上で述べた経験法則の非常に満足のいく解釈、つまり相対性理論の考え方に合致する解釈に到達する述べています。これら二つの座標系が物理学的に全く同値であるという仮定は、特殊相対性理論が許容する座標系の絶対速度について我々が語ることを不可能とするのと同様に、座標系の絶対加速度について語ることを不可能にすることになるが、しかしながら一様な重力場ですべての物体が同様に落下していくということを全く当然の帰結としてしまうと述べています。そして、特殊相対性理論の座標変換のよって、任意の運動状態にある一つの媒質のすべての点を静止状態にすることはできるが、任意の重力場の中の座標系を運動状態にある座標系に変換して重力場を消し去ることはもちろんできないと補足説明しています。


 ニュートンの力学が成り立つ範囲内での純力学的な過程に限れば、先に挙げた座標系 KK' の同値性は確かなことですが、我々の見方、つまり相対性理論の考え方では、座標系 KK' とがすべての物理的過程に対して同値でない限り、即ち、K に関する自然法則が、K' に関する自然法則と全く一致するのでなければ、深い意味はもちえないと指摘した上で、もしこの両座標系での自然法則が一致するという仮定が本当に真であれば、非常に大きな発見的重要性をもった一つの原理に到達すると述べています。なぜなら、我々は一様な加速度をもっている座標系に関して起こっている過程の理論的な考察によって、一様な重力場の中での過程に関する情報を得ることができるからです。


 そこでまず最初に、普通の相対性理論、つまり特殊相対性理論の立場から、今我々が取り上げようとしている仮定についてどの程度の可能性があるのかを示そうとしています。そして補足として、ここで考えた重力場は、第一近似として一様であればよいことが、のちの論文で示されると述べています。

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