アルベルト・アインシュタインの論文を読む

アインシュタインの論文に関する独断と偏見に満ちた読後報告です。

1916年の論文「一般相対性理論の基礎」(その2)

 前節では、慣性の法則が成り立つような座標系 K 系に対して第2の座標系 K' を考え、他の物質から十分遠く離れた物質が形作る物体を座標系 K'K に対して一様に加速されている並進運動をする場合と、K に対して加速はしていないが一様な重力の影響下にある場合を比較して、自然現象の物理学的な記述に対して座標系の資格について考えました。次に第3節

3 時空連続体、自然の一般法則を表わす方程式に対する一般共変性の要請

を読み進めていきます。まず最初にアインシュタインは、古典力学においても特殊相対性理論においても、時間と空間の座標というものは直接物理的な意味を持っていると述べています。一つの点事象が X_1 座標 x_1 を持っているということは、剛体の棒で定められてユークリッド幾何学の法則に従う X_1 座標軸があって、X_1 軸上へのその点事象の正射影の位置が、座標系の原点から X_1 軸に沿って単位の長さの棒を使って x_1 回測って得られる位置にあることを意味しています。また、一つの点事象が X_4 座標 x_4 = t を持っているといことは、ある一定の単位時間で時間を測定するために作られて座標系に対して定常、つまり静止していて、空間ではその事象と一致した場所にある座標系の標準となる時計が、その事象が起こったときに x_4 = t 単位だけ測り取っていたということを意味しています。もちろんこのためには空間で点事象のすぐ近くにある時計との「同時性」は検証可能であることが仮定されていなければなりません。アインシュタインは、さらにもっと正確に言うならば、時空内の事象のすぐ近くとの一致性は、この基本概念の定義を与えなくともわかるものだと仮定することだと述べています。そしてこの時空に対するこの見方は、例え一般的には無意識的であったとしても、いつも物理学者のあ棚も中にはあったものであると述べています。つまりこれら座標という概念が物理的測量で演じる役割からも明らかなことであると述べています。さらに言えば、第2節で座標系 KK' に関する記述を読んだ読者がそのことの意味を考えようとして考察した中にもあったはずだというのです。しかしアインシュタインは、このことはしばらくおいておいて、特殊相対性理論は重力場のない特別な場合にしか当てはまらないので、一般相対性の仮定をさらに理論の中で推し進めていくことを可能にするためには、特殊相対性理論をさらに一般的な見地で置き換えるべきであることを示す述べています。


 今、重力場のない空間の中で一つのガリレイ座標系 K(x,y,z,t) と、この K に対して一様な回転をしている一つの座標系 K'(x',y',z',t') を導入します。またこの二つの座標系の位置関係として、原点同士と、 Z 軸と Z' 軸は常に一致しているものとします。そしてこのとき、K' のなかでの時空の測定に対しては、空間的長さと時間的間隔が上で確認した空間と時間の座標の物理的意味がそのまま成り立たないということを示そうという訳です。二つの座標系の位置関係の対称性から、KXY 平面上の原点を中心とする円は、同時に K'X'Y' 平面上の円とみなしうることは明らかです。そしてこの円の円周と直径を、直径と比較すれば限りなく小さな単位長の物差し、つまり円周上の弧が直線分とほぼ同じとみなさるほど短い単位長の物差しで測って、二つの結果を比較したとします。もしこの実験がガリレイ座標系に静止している測量棒で測定されたとすれば、ガリレイ座標系ではユークリッド幾何学が成り立つので、この比の値は π になるはずです。一方、座標系 K' に対して静止している測量棒で測定されたとすれば、この比の値は π よりも大きい値になることが予想できます。それは、すべての測量の過程が「定常な」座標系から行われたとして比較すると、K' に静止している十分小さい測量棒は、円周上に沿っておかれたとき測定の瞬間には K に対して移動しているので、ローレンツ収縮を受けますが、半径方向に沿っておかれた測量棒は測定の瞬間には半径方向には静止しているのでローレンツ収縮を受けないことになり、K で測定された円周よりも K' で測定された円周のほうが大きい値を示すと考えられることから直ちにわかります。従って、座標系 K' ではユークリッド幾何学が成り立っていないことになります。上で確認した空間と時間の座標の物理的意味はユークリッド幾何学が成り立つことを前提にしているので、座標系 K' に対しては空間と時間の座標の物理的意味が不確かなものになってしまうことになります。


 また同様に K' に対して静止している時計によって示される K' 内での時間の座標の物理的意味に対応する時間間隔を導入することができなくなってしまうこともわかります。これが不可能であることは、全く同じ構造で、時の刻みも同じ二つの時計を、一つは座標原点に、もう一つは円周上に置いて、ともに「定常な」座標系 K でそれらを考察してみればわかります。特殊相対性理論のよく知られた結果から、K での考察では瞬間瞬間に円周上の時計は K に対して運動しているのに対し、原点の時計は K に対して静止しているので、円周上の時計は原点の時計に比べてゆっくり進むことがわかります。それは座標系 KK' の共通の座標原点にいる観測者が、円周上の時計を光を用いて観測することができるので、観測者は手元にある時計に比べて円周上の時計が送れていることを観測することになります。注意すべきことは観測者が用いた光は円周上の時計に向けて半径方向に軌道を描く光なので、半径方向に遠心力という慣性力が働いて光の速度は変化するということです。このとき K から見ている観測者は光の速度が変化していることは知らずに、観測結果を、円周上にある時計原点にある時計よりも「実際に」送れていると解釈するのが妥当です。従って観測者は、時計の進み具合が時計が置かれている場所に関係して調整するように座標系 K' の時間を定義せざると得なくなります。従って、

一般相対性理論においては、空間と時間に関して、空間座標の差は測量棒で直接測定されるように、また時間座標の差は一つの標準時計で測定されるように定義尾することはできない。

という結論に達することになります。


 こうして時空の中に一定の方法で定めるために今まで用いてきた方法が使えなくなってしまいました。従って、それを用いれば自然法則の特に簡単な表式化を得ると期待し得るような4次元宇宙への座標系の採用を許す方法は全くないように思えます。ことここに至ってアインシュタインは、すべての考えうる座標系を、原則としては自然の記述に対して同様に適したものであるとみなす以外にはないと主張します。こうして、

自然の一般法則は、すべての座標系に対して成立する、即ちすべての座標変換に対して共変な方程式で表されるべきである。

という要請に達しました。この要請を満たす物理学の理論が、一般相対性の仮定をも満たすことは明らかです。すべての座標変換の集合が、3次元空間座標のすべての相対運動に対応する座標変換を含んでいることは明らかだからです。


 座標系の導入はこのように事象の一致の全体の記述容易にするためという以外の目的には役に立たないものです。座標系を採用すると、宇宙の中のそれぞれの点事象に変数 x_1,x_2,x_3,x_4 の値の組として、点事象に対応する時空変数 x_1,x_2,x_3,x_4 を与えることができます。二つの一致した点事象には、ただ1組の変数 x_1,x_2,x_3,x_4 の値の組が対応します。即ち点事象の一致は、それを表す座標の値が等しいことで特徴づけることができます。もし点事象の座標変数 x_1,x_2,x_3,x_4 の代わりに新しい座標系として、それらの変数の関数 x'_1,x'_2,x'_3,x'_4 を導入して、お互いの座標の値に曖昧さなく対応するようにしても、新しい座標系での4つの座標の値の組がすべて等しいということが、二つの点事象が時空で一致することの表現としての役割を示すことになります。すべての物理的経験は結局この一致にに帰着されることから、ある座標系を他の座標系と区別する直接の理由は存在しなくなります。即ち一般共変性の要請ということに到達する結果となりました。


 続けて第4節

4 四つの座標と時空における測量との関係、重力場に関する解析的表現

を読みます。アインシュタインは、この議論の目的は一般相対性理論を最も簡単で最も論理的な最小数の小売りを満たす理論体系として述べようとするものではないと述べています。アインシュタインの目的は、この論文の読者が、アインシュタインが踏み込んだ道が心理的に自然なものであって、アインシュタインの主張の元になっている仮定は、可能な限りの安全度、つまり妥当性を持つように見えると感じるように一般相対性理論を展開することにあると述べています。この目的を念頭において、

限りなく小さな4次元領域に対しては、もし座標系が適当に選ばれていれば、特殊相対性理論が成り立つ。

は認められると主張しています。もちろんこの目的のためには、そこには重力場が生じないように限りなく小さな局所座標系の加速度を選ばなければなりません。これは限りなく小さな領域に対しては可能です。


 今、X_1,X_2,X_3 を空間の座標とし、X_4 を適当な単位で測られた、その空間座標に属する時間座標であるとします。アインシュタインはここで時間の単位について、「局所」座標系において測られた真空中での光の速度が単位に選ばれているべきであると述べています。


 一つの剛体棒が単位の長さを測るものとして与えられたとすれば、座標系の与えられた向きに対して、座標は特殊相対性理論の意味での直接の物理的意味を持っている。特殊相対性理論によれば、


ds^2 = - dX_1^2 - dX_2^2 - dX_3^2 + dX_4^2


は、局所座標系の向きとは無関係で、空間と時間の測定で認めることのできる値を持っていることになります。この ds のことを4次元連続体の中で限りなく近くで隣接している点に関する線素と呼びます。このときもし、要素 dX_1,dX_2,dX_3,dX_4 に属する ds^2 が正であれば、ミンコフスキーに従って、時間的と呼び、もし負であれば空間的と呼びます。


 考えているこの「線素」、あるいはまた2つの無限に近い点事象には、任意に選ばれた座標系の4次元座標の定まった微分 dx_1,dx_2,dx_3,dx_4 が対応しています。もしこの座標系が、「局所」座標系と同様に今考えている4次元領域内に与えられているとすれば、dX_νdx_σ の斉一次式


dX_ν = ∑_σ a_νσ dx_σ


によって与えられます。これを線素の2乗の式に代入すれば、


ds^2 = - ∑_σ∑_τ a_ a_ dx_σdx_τ - ∑_σ∑_τ a_ a_ dx_σdx_τ - ∑_σ∑_τ a_ a_ dx_σdx_τ
  + ∑_σ∑_τ a_ a_ dx_σdx_τ


= ∑_σ∑_τ(-a_ a_)dx_σdx_τ + ∑_σ∑_τ(-a_a_)dx_σdx_τ + ∑_σ∑_τ(-a_ a_)dx_σdx_τ
 + ∑_σ∑_τ(a_ a_)dx_σdx_τ


となり、


g_στ = - a_ a_ - a_ a_ - a_ a_ + a_ a_


とおくと、


ds^2 = ∑_σ∑_τ g_στ dx_σdx_τ


となります。ここで g_στx_σ の関数です。この ds^2 はもはや「局所」座標系の向きと運動状態には関係していません。それは ds^2 は時空における無限に近い点事象の棒と時計による測量で認め得る一つの量であって特別に選んだどんな座標系とも無関係に定義されているからです。


 ここでの総和は στ のすべての値に対して取られているので、この和は 4 × 4 個の16個の項からなっていますが、ここで g_στ


g_στ = g_τσ


であるように選んでおけば、これらのうち12個は互いに二つずつ等しい組になっているので、10個の関数からできていることになります。この有限の領域内で、g_στ が一定の値


-1  0  0  0
0  -1    0  0
0    0  -1    0
0    0   0  1


を取るように選ぶことができるのであれば、この有限の領域内では特殊相対性理論が成り立つことになります。しかしアインシュタインは一般にこのような座標系を有限の時空領域に対して選ぶことは不可能であろうと述べています。


 第2節と第3節の考察から、計量テンソル g_στ は、物理学的な見地からは選ばれた座標系に対する重力場を記述する量であるとみなされるべきであることがわかると述べています。その理由はもし特殊相対性理論が適当に選ばれたある4次元領域に対して当てはまるものであるとすれば、このとき g_στ は上の一定の値を持つことになります。このとき力の作用を受けていない一つの質点はこの座標系に対して一直線上を一定の速度を持って運動することになります。


 さて、ここで任意に選ばれた座標変換によって新しい時空座標 x_1,x_2,x_3,x_4 を導入すれば、この新しい座標系における g_στ はもはや定数ではなく、時間と空間の関数となるはずです。そしてこれと同時に力の作用を受けていない質点の運動は、この新しい座標系では曲線に沿った一様でない運動となるはずです。しかもこの運動法則は運動する粒子の性質には無関係です。従ってこの運動は重力場の中での運動と解釈されることになります。こうして g_στ が時空の各点で変化すとるいうことに関連して重力場が現れることを見出しました。よって一般の場合、つまり適当な座標を選ぶことによって有限の領域に特殊相対性理論をあてはめることがもはやできない場合にも、g_στ は重力場を記述するものであるという見解を持つことになります。


 従って一般相対性理論によれば、重力は他の力、特に電磁気力に対して例外的な地位を占めていることになります。なぜなら重力場を表す10個の関数 g_μν は同時に測られる空間の計量的性質を定義するからであるとアインシュタインは述べています。

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