アルベルト・アインシュタインの論文を読む

アインシュタインの論文に関する独断と偏見に満ちた読後報告です。

1916年の論文「一般相対性理論の基礎」(その7)

 標記論文の第11節

11 特別な重要性をもったいくつかの場合

の続きを読みます。アインシュタインはこの節でテンソル解析について述べていますが、共変微分をテンソルの拡大と呼んでいます。共変テンソルについては前回見ましたが、その他のテンソルについては発散の考察の中で述べられています。


 アインシュタインは6ベクトルの発散についても述べています。今、2階の共変テンソル A_μν の拡大


A_μνσ = (∂A_μν/∂x_σ) - {μσ,τ}A_τν - {νσ,τ}A_μτ


g^μαg^νβ との混合積


g^μαg^νβA_μνσ = g^μαg^νβ(∂A_μν/∂x_σ) - g^μαg^νβ{μσ,τ}A_τν - g^μαg^νβ{νσ,τ}A_μτ


を取ると、右辺第1項は


g^μαg^νβ(∂A_μν/∂x_σ) = (∂/∂x_σ)(g^μαg^νβA_μν) - g^μα(∂g^νβ/∂x_σ)A_μν - g^νβ(∂g^μα/∂x_σ)A_μν


と書き換えることができ、さらに


(∂g^μν/x_σ) = - g^μαg^νβ(∂g_αβ/∂x_σ)


を用いて、


(∂g^μα/∂x_σ) = - g^μλg^αρ(∂g_λρ/∂x_σ),   (∂g^νβ/∂x_σ) = - g^νλg^βρ(∂g_λρ/∂x_σ)


と書き換えると、


g^μαg^νβ(∂A_μν/∂x_σ)


= (∂A^αβ/∂x_σ) + g^μαg^νλg^βρ(∂g_λρ/∂x_σ)A_μν + g^νβg^μλg^αρ(∂g_λρ/∂x_σ)A_μν


= (∂A^αβ/∂x_σ) + g^βρ(∂g_λρ/∂x_σ)A^αλ + g^αρ(∂g_λρ/∂x_σ)A^λβ


となります。従って


g^μαg^νβA_μνσ


= (∂A^αβ/∂x_σ) + g^βρ(∂g_λρ/∂x_σ)A^αλ + g^αρ(∂g_λρ/∂x_σ)A^λβ - g^μαg^νβ{μσ,τ}A_τν
 - g^μαg^νβ{νσ,τ}A_μτ


となります。ここで、クリストッフェルの3指標記号の関係式


{μν,τ} = g^τσ[μν,σ]


を用いると


g^μαg^νβA_μνσ


= A^αβ_σ


= (∂A^αβ/∂x_σ) + g^βρ(∂g_λρ/∂x_σ)A^αλ + g^αρ(∂g_λρ/∂x_σ)A^λβ - g^μαg^νβg^τρ[μν,ρ]A_τν
 - g^μαg^νβg^τλ[νσ,λ]A_μτ


= (∂A^αβ/∂x_σ) + g^βρ(∂g_λρ/∂x_σ)A^αλ + g^αρ(∂g_λρ/∂x_σ)A^λβ - g^μα[μν,ρ]A^ρβ
 - g^νβ[νσ,λ]A^αλ


となります。さらに基本テンソルの微分とクリストッフェルの3指標記号の関係式


(∂g_αβ/∂x_σ) = [ασ,β] + [βσ,α]


を用いると、


(∂g_λρ/∂x_σ) = [λσ,ρ] + [ρσ,λ]


と書き換えることができて、


A^αβ_σ


= (∂A^αβ/∂x_σ) + g^βρ([λσ,ρ] + [ρσ,λ])A^αλ + g^αρ([λσ,ρ] + [ρσ,λ])A^λβ - g^μα[μν,ρ]A^ρβ
 - g^νβ[νσ,λ]A^αλ


= (∂A^αβ/∂x_σ) + g^βρ[λσ,ρ]A^αλ + g^αρ[λσ,ρ]A^λβ + g^βρ[ρσ,λ]A^αλ + g^αρ[ρσ,λ])A^λβ
 - g^μα[μν,ρ]A^ρβ - g^νβ[νσ,λ]A^αλ


= (∂A^αβ/∂x_σ) + g^βρ[λσ,ρ]A^αλ + g^αρ[λσ,ρ]A^λβ
 + (g^βρ[ρσ,λ] - g^νβ[νσ,λ])A^αλ + (g^αρ[ρσ,λ] - g^μα[μν,λ])A^λβ


となりますが、添字の付け替えによって、最終行の ( ) 内が零になることがわかります。つまり


A^αβ_σ = (∂A^αβ/∂x_σ) + g^βρ[λσ,ρ]A^αλ + g^αρ[λσ,ρ]A^λβ


= (∂A^αβ/∂x_σ) + {λσ,β}A^αλ + {λσ,α}A^λβ


となって、反変テンソル A^αβ の拡大、即ち共変微分が得られます。アインシュタインは、種々の階数の反変テンソルの拡大の式も同様にして作ることができると述べています。そしてまた同様にして混合テンソルの拡大の式を作ることができることに注意を与えています。


 そこで復習のためにアインシュタインの主張に沿って混合テンソルの共変微分の式を作ってみます。2階の共変テンソル A_μν の拡大


A_μνσ = (∂A_μν/∂x_σ) - {μσ,τ}A_τν - {νσ,τ}A_μτ


g^μα との混合積


g^μαA_μνσ = g^μα(∂A_μν/∂x_σ) - g^μα{μσ,τ}A_τν - g^μα{νσ,τ}A_μτ


を取ると、右辺第1項は


g^μα(∂A_μν/∂x_σ) = (∂/∂x_σ)(g^μαA_μν) - (∂g^μα/∂x_σ)A_μν


と書き換えることができ、さらに


(∂g^μα/∂x_σ) = - g^μλg^αρ(∂g_λρ/∂x_σ)


を用いて、


g^μα(∂A_μν/∂x_σ) = (∂/∂x_σ)(g^μαA_μν) + g^μλg^αρ(∂g_λρ/∂x_σ)A_μν


= (∂/∂x_σ)(g^μαA_μν) + g^αρ(∂g_λρ/∂x_σ)A^λ_ν


となります。ここから


g^μαA_μνσ


= A^α_νσ


= (∂/∂x_σ)(g^μαA_μν) + g^αρ(∂g_λρ/∂x_σ)A^λ_ν - g^μα{μσ,τ}A_τν - g^μα{νσ,τ}A_μτ


= (∂A^α_ν/∂x_σ) + g^αρ(∂g_λρ/∂x_σ)A^λ_ν - g^μα{μσ,τ}A_τν - g^μα{νσ,τ}A_μτ


として


(∂g_λρ/∂x_σ) = [λσ,ρ] + [ρσ,λ]


{μσ,τ} = g^τρ[μσ,ρ],   {νσ,τ} = g^τρ[νσ,ρ]


を用いて、


A^α_νσ


= (∂A^α_ν/∂x_σ) + g^αρ([λσ,ρ] + [ρσ,λ])A^λ_ν - g^μαg^τρ[μσ,ρ]A_τν - g^μαg^τρ[νσ,ρ]A_μτ


= (∂A^α_ν/∂x_σ) + g^αρ([λσ,ρ] + [ρσ,λ])A^λ_ν - g^μα[μσ,ρ]A^ρ_ν - g^τρ[νσ,ρ]A^α_τ


= (∂A^α_ν/∂x_σ) + g^αρ[λσ,ρ]A^λ_ν - g^τρ[νσ,ρ]A^α_τ + g^αρ[ρσ,λ])A^λ_ν - g^μα[μσ,ρ]A^ρ_ν


= (∂A^α_ν/∂x_σ) + g^αρ[λσ,ρ]A^λ_ν - g^τρ[νσ,ρ]A^α_τ + {g^αρ[ρσ,λ]) - g^μα[μσ,λ]}A^λ_ν


となりますが、添字の付け替えによって、{ } 内が零になることがわかります。つまり


A^α_νσ = (∂A^α_ν/∂x_σ) + g^αρ[λσ,ρ]A^λ_ν - g^τρ[νσ,ρ]A^α_τ


= (∂A^α_μ/∂x_σ) + {λσ,α}A^λ_ν - {νσ,τ}A^α_τ


となって、混合テンソル A^α_μ の拡大、即ち共変微分が得られます。


 さて6ベクトルの発散に話を戻します。2階の反変テンソルの拡大


A^αβ_σ = (∂A^αβ/∂x_σ) + {λσ,β}A^αλ + {λσ,α}A^λβ


を添字 βσ に関して縮約することによって、つまり δ^σ_β との内積を取ることによってベクトル


A^α = (∂A^αβ/∂x_β) + {βγ,β}A^αγ + {βγ,α}A^γβ


を得ます。ここでクリストッフェルの3指標記号 {βγ,α} が添字 βγ に関して対称であることから、もし2階の反変テンソル A^αβ が交代テンソルであれば、上式の第3項は


{βγ,α}A^γβ


= (1/2){[βγ,α}A^γβ + {γβ,α}A^βγ] = (1/2){[βγ,α}A^γβ - {βγ,α}A^γβ] = 0


となって消えてしまいます。また第2項は前回に示されたテンソル解析の結果から


{βγ,β} = {1/√(-g)}(∂/∂x_γ){√(-g)}


と書き換えることができるので、ベクトル


A^α = (∂A^αβ/∂x_β) + {1/√(-g)}(∂/∂x_γ){√(-g)}A^αγ


は、微分


{1/√(-g)}(∂/∂x_β){√(-g)A^αβ} = {1/√(-g)}{∂√(-g)/∂x_β}∂A^αβ + (∂A^αβ/∂x_β)


に注意すれば


A^α = {1/√(-g)}(∂/∂x_β){√(-g)A^αβ}


を得ます。アインシュタインはこれが反変6ベクトルの発散に対する式であると述べています。


 アインシュタインはさらに混合テンソルの発散についても述べています。そして後の議論で用いる式を導いています。混合テンソル A^α_μ の拡大


A^α_νσ = (∂A^α_μ/∂x_σ) + {λσ,α}A^λ_ν - {νσ,τ}A^α_τ


について、2階の反変テンソルと同様に添字 ασ に関して縮約することによって、つまり δ^σ_α との内積を取ることによって


A^α_να = (∂A^α_ν/∂x_α) + {λα,α}A^λ_ν - {να,τ}A^α_τ


を得ます。ここで前回に示されたテンソル解析の結果から


{λα,α} = {αλ,α} = {1/√(-g)}(∂/∂x_λ){√(-g)}


と書き換えることができるので、微分


{1/√(-g)}(∂/∂x_β){√(-g)A^α_ν} = {1/√(-g)}{∂√(-g)/∂x_β}A^α_ν + (∂A^α_ν/∂x_β)


に注意すれば


{1/√(-g)}(∂/∂x_α){√(-g)A^α_ν} = {1/√(-g)}(∂/∂x_α){√(-g)}A^α_ν + (∂A^α_ν/∂x_α)


となることから、混合テンソルの発散


√(-g)A^α_να = √(-g)A_ν = (∂/∂x_α){√(-g)A^α_ν} - {να,τ}√(-g)A^α_τ


を得ます。


 ところでここで反変テンソル


A^ρα = g^ρτA^α_τ


を導入すると、


{να,τ} = g^τρ[να,ρ]


なので


- {να,τ}√(-g)A^α_τ = - g^τρ[να,ρ]√(-g)A^α_τ = - [να,ρ]√(-g)A^αρ


の形に変形できます。もしこの反変テンソルが対称テンソルであるとすると、さらに


- [να,ρ]√(-g)A^αρ = - (1/2){[να,ρ]√(-g)A^αρ + [νρ,α]√(-g)A^ρα}


= - (1/2)√(-g){[αν,ρ] + [ρν,α]}A^αρ


と変形できて、


(∂g_αρ/∂x_ν) = [αν,ρ] + [ρν,α]


であるので


- {να,τ}√(-g)A^α_τ = - (1/2)√(-g)(∂g_αρ/∂x_ν)A^αρ


となります。


 ここでもし対称な反変テンソル A^αρ の代わりに対称な共変テンソル


A_αρ = g_αμg_ρνA^μν


を導入すれば、


(∂g_αρ/x_ν) = - g_αμg_ρτ(∂g^μτ/∂x_ν)


によって


- {να,τ}√(-g)A^α_τ = - (1/2)√(-g){- g_αμg_ρτ(∂g^μτ/∂x_ν)}A^αρ


= (1/2)√(-g)(∂g^μτ/∂x_ν)}A_μτ


となります。この結果混合テンソルの発散を


√(-g)A_ν = (∂/∂x_α){√(-g)A^α_ν} - (1/2)√(-g)(∂g_αρ/∂x_ν)A^αρ


√(-g)A_ν = (∂/∂x_α){√(-g)A^α_ν} + (1/2)√(-g)(∂g^μτ/∂x_ν)}A_μτ


の2通りに書き表せることになります。アインシュタインはこのように変形された混合テンソルの発散の式を後の考察で用いることになるであろうと述べています。

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