1905 年の論文「運動物体の電気力学」 B 電気力学の部(その12)
まず、開設以来延べ500回を超える閲覧をいただきましたこと感謝申し上げます。
さて、標記論文の B 電気力学の部
10 (ゆっくり加速された)電子の力学
という節の続きを読みます。
慣性質量についての考察の後、アインシュタインは電子の運動エネルギーについて考察しています。静止系 K 系の原点から初速度 0 で静電場 X の影響を受けながら X 軸の正の方向に進むとすると、静電場 X から電子に与えられるエネルギーは、静電場による仕事
∫^x εX dx
で与えられます。ここで電子は静電場でゆっくりと加速されるので電磁波の放射によるエネルギーの減少がないものと仮定すると、電子になされる静電場による仕事は電子の運動エネルギー W に等しいはずです。またこの運動の全過程の瞬間瞬間で運動方程式
d^2x/dt^2 = εX/μβ^3
が成り立ち、速度が v に達するものとすると、全過程のおける瞬間瞬間の
β = 1/√{1 - (v1/V)^2}
を規定する速度 v は
v = ux = dx/dt
と考えてよく、
μβ^3(dux/dt) = μ/[√{1 - (ux/V)^2}]^3 (dux/dt) = εX
として積分を実行することができます。dx = uxdt ですから
W = ∫^x εX dx = μ∫[1/√{1 - (ux/V)^2}]^3 (dux/dt)uxdt=μ∫[1/√{1 - (ux/V)^2}]^3 uxdux
となりますが、ここで積分変数を置換して、
W = (μV^2/2)∫[1/√{1 - (ux/V)^2}]^3 d(ux/V)^2
で、λ = (ux/V)^2 として
W = (μV^2/2)∫_0^(v/V)^2 {1 - λ}]^(-3/2)dλ = (μV^2/2)[2(1 - λ)^(-1/2)]_0 ^(v/V)^2
のように積分が実行できて、
W = (μV^2)[1/√{1 - (v/V)^2} - 1]
が得られます。この結果、v → V とすると W は無限に大きくなるので、光よりもはやい速度はありえないことになります。また慣性質量についての考察と同様に、この運動エネルギーの考察についても重さのある物質の場合にも成り立つことをアインシュタインは指摘しています。
アインシュタインは、電磁場からの力を受ける電子の運動の性質で、実験的に検証可能なものを3つ挙げています。
1. 電磁場の影響を受ける電子の運動方程式
d^2y/dt^2 = ε{Y - (v/V)N}/μβ
について、Y = (v/V)N の場合について考察しました。このとき電気力 Y と磁気力 N は、速度 v で運動する電子の進路に対して、同じ大きさの影響を及ぼすことになります。従って電子に対する磁気的な偏向 Am と電気的な偏向 Ae の比
Am/Ae = v/V
から電子の速度がわかると主張しています。ですがこの主張は私には難解なものです。問題は磁気的な偏向 Am と電気的な偏向 Ae をどう評価するかということです。ごく自然な考え方は電子の経路についての曲率または曲率半径に関連する量であると思われます。そこで、この提言 1 については、以下の提言 3 の後に再度読み直すことにします。
2. 電子の運動エネルギーの導き方は、電磁波の放射によるエネルギーの減少はないとして電場が電子に対してなす仕事
W = ∫^x εX dx = ε∫^x X dx
を計算するというものでした。これは電子が通過した2点間の電位差 P から求まるものですから、このとき電子が獲得した速度 v との間には
P = ∫^x X dx = (μV^2/ε)[1/√{1 - (v/V)^2} - 1]
という関係が成り立たなければならないと主張しています。
3. 電子の速度方向に垂直な方向に対して作用する磁場が存在し、そして電子の進路を偏向させる力がこれだけである場合、この電子がたどる経路の曲率半径 R を計算できると主張しています。
今、電子が加速されて静止系 K 系の X 軸の正の方向に速度 v を得たとき、磁場 (0,0,N) だけの影響を受けるとすれば、電子に対する運動方程式
d^2y/dt^2 = ε{Y - (v/V)N}/μβ
において、Y = 0 なので
- d^2y/dt^2 = ε(v/V)N/μβ = (ε/μ)(v/V)N√{1 - (v/V)^2}
です。質量 μ、速度 v で曲率半径 R の経路に沿って運動する物体の向心力の大きさは μv^2/R で与えられますから、
v^2/R = (ε/μ)(v/V)N√{1 - (v/V)^2}
より
R = v^2/(ε/μ)(v/V)N√{1 - (v/V)^2} = V^2(μ/ε)(v/V)^2/(v/V)N√{1 - (v/V)^2}
= V^2(μ/ε)(v/V)(1/N)/√{1 - (v/V)^2}
であることが示されます。
さて、ここで懸案の提言 1 に戻ります。電子に対する磁気的な偏向 Am と電気的な偏向 Ae が曲率半径であるとすると、電子が静止系 K 系の X 軸の正の方向に速度 v で運動しているとき、磁場 (0,0,N) から力を受けるとすると、磁場による曲率半径は、
Am = Rm = V^2(μ/ε)(v/V)^2{1/(v/V)N}/√{1 - (v/V)^2}
であり、電場 (0,Y,0) から力を受けるとすると、電場による曲率半径は
Ae = Re=V^2(μ/ε)(v/V)(1/Y)/√{1 - (v/V)^2}
となります。そこで Y = (v/V)N の場合には、
Am/Ae = Rm/Re = (v/V){1/(v/V)N}/(1/Y) = v/V
となります。これは結果に合わせるこじつけですが、ともかくも曲率半径の比から電子の速度を求めることは可能であることがわかりました。一方、電子の速度を計測できる場合には、この関係式を実験的に検証することも可能です。ですがアインシュタインの述べている高周波の電磁場を用いて電子の速度を計測できることについては私は知識がありません。
アインシュタインは、ここに示した理論によれば電子が従わなければならない諸法則は、上に述べた3つの提言で完全に表されている値主張しています。
そしてこの論文を締めくくるにあたり、この論文で論じた問題に取り組むにあたって、友人で協力者であったベッソ氏の支援と助言があったこと記して、氏に謝意を表しています。
以上でアインシュタインの論文『運動物体の電気力学』の論文を私の独断と偏見で読んだことになりますが、私の感想として、特に物理学者でなければ読めないものではない、つまりアインシュタインの仮説に基づいて、彼の考察を追うことは不可能ではないことがわかりました。ただし、計算を追うのは中学生の文字式計算力ではかなり難しいとは思いました。そして考察過程を追うのは不可能ではないだけで、理解ができたかというとはなはだ疑問であることを認めざるを得ません。もしどなたかのからの質問があったとして、私がそれに答えられるかというと、とてもそこまでの知識は得られなかったというのが正直なところです。そしてこれは繰り返しになりますが、論文の著者にとって自明であることであっても、読者にとっては自明でないことが多々あるということです。そして読者は、そのことが読者にとっても自明であるべく考察を深めるべきではないかとか考えました。物理学の論文は何かの宗教の経典ではないので信じるか信じないかの評価ではなく、仮説に基づく論証が理解できるか否かの評価であるということです。