1905 年の論文「運動物体の電気力学」 B 電気力学の部(その2)
標記論文の B 電気力学の部
6 真空に対するマックスウェル-ヘルツの方程式の変換.磁場中での運動によって生じる起電力の性質について
という節の続きを読んでいきます。アインシュタインは真空中のマックスウェル-ヘルツの方程式を静止系 K 系 (x,y,z,t) で
(1/V)(∂X/∂t) = (∂N/∂y) - (∂M/∂z), (1/V)(∂L/∂t) = (∂Y/∂z) - (∂Z/∂y)
(1/V)(∂Y/∂t) = (∂L/∂z) - (∂N/∂x), (1/V)(∂M/∂t) = (∂Z/∂x) - (∂X/∂z)
(1/V)(∂Z/∂t) = (∂M/∂x) - (∂L/∂y), (1/V)(∂N/∂t) = (∂Y/∂y) - (∂Z/∂x)
と表し、これらを運動系 k 系 (ξ,η.ζ,τ) に
(1/V)(∂X/∂τ) = (∂/∂η)β{N - (v/V)Y} - (∂/∂ζ)β{M + (v/V)Z}
(1/V)(∂/∂τ)β{Y - (v/V)N} = (∂L/∂ζ) - (∂/∂ξ)β{N - (v/V)Y}
(1/V)(∂/∂τ)β{Z + (v/V)M} = (∂/∂ξ)β{M + (v/V)Z} - (∂L/∂η)
および
(1/V)(∂L/∂τ) = (∂/∂ζ)β{Y - (v/V)N} - (∂/∂η)β{Z - (v/V)M}
(1/V)(∂/∂τ)β{M + (v/V)Z} = (∂/∂ξ)β{Z + (v/V)M} - (∂X/∂ζ)
(1/V)(∂/∂τ)β{N - (v/V)Y} = (∂X/∂η) - (∂/∂ξ)β{Y - (v/V)N}
と変数変換して、形がよく似た方程式系を導出しました。ここで
β = 1/√{1 - (v1/V)^2}
です。
さて、『相対性原理』によれば、真空中のマックスウェル-ヘルツの方程式が静止系 K 系で成り立つのであれば、運動系 k 系でも成り立たなければなりません。つまり運動系 k 系での電場 (X',Y',Z') と磁場 (L',M',N') に対して、
(1/V)(∂X'/∂τ) = (∂N'/∂η) - (∂M'/∂ζ), (1/V)(∂L'/∂τ) = (∂Y'/∂ζ) - (∂Z'/∂η)
(1/V)(∂Y'/∂τ) = (∂L'/∂ζ) - (∂N'/∂ξ), (1/V)(∂M'/∂τ) = (∂Z'/∂ξ) - (∂X'/∂ζ)
(1/V)(∂Z'/∂τ) = (∂M'/∂ξ) - (∂L'/∂η), (1/V)(∂N'/∂τ) = (∂Y'/∂η) - (∂Z'/∂ξ)
が成り立たなければなりません。ここで運動系 k 系での電場 (X',Y',Z') と磁場 (L',M',N') については
なお,これらの力は,運動系において電荷および磁荷に及ぼす動重力により定義される.
と述べられています。『動重力』の意味がよくわからなかったのですが、静止系 K 系において電荷および磁荷に及ぼす力にによって電場 (X,Y,Z) と磁場 (L,M,N) が定義されるのと同じやり方で、運動系 k 系においても電荷および磁荷に及ぼす力にによって電場 (X',Y',Z') と磁場 (L',M',N') が定義されるという意味だと思われます。
ここで運動系 k 系について2組の方程式が提示されることになったわけですが、アインシュタインはこの2組の方程式は厳密に同じでなければならないと主張しています。その理由は、一方が静止系 K 系での真空中のマックスウェル-ヘルツの方程式を数学的に運動系 k 系に変数変換したものであり、他方が『相対性原理』によって規定される運動系 k 系での真空中のマックスウェル-ヘルツの方程式だからです。つまり真空中のマックスウェル-ヘルツの方程式を静止系 K 系と運動系 k 系で書き表したものであるべきだからです。さらに注意すべきことは、両座標系で表されている方程式系は、ベクトルの成分の記号以外の偏微分についてはまったく同じ形をしていることです。定数因子は偏微分演算子を通り抜けることから、対応する方程式の関数は、ある定数因子 φ(v) を除いて、一致しなければなりません。しかも、この因子は両座標系の量 (x,y,z,t) や (ξ,η,ζ,τ) には依存せず、速度 v には依存するかもしれない因子です。つまり関数の関係として、
X' = φ(v)X, Y' = φ(v)β{Y - (v/V)N}, Z' = φ(v)β{Z + (v/V)M}
L' = φ(v)L, M' = φ(v)β{M + (v/V)Z}, N' = φ(v)β{N - (v/V)Y}
であると考えられます。この速度 v に依存する因子を求めることにします。
まず、上の式を電場 (X,Y,Z) と磁場 (L,M,N) について解きます。
X = {1/φ(v)}X'
また、
Y' = φ(v)β{Y - (v/V)N}, N' = φ(v)β{N - (v/V)Y}
より、
Y' = φ(v)β{Y - (v/V)N}, (v/V)N' = φ(v)β{(v/V)N - (v/V)^2Y}
として加え合わせると、
Y' +(v/V)N' = φ(v)β{1 - (v/V)^2}Y
Y = {1/φ(v)}β{Y' +(v/V)N'}
であり、
Z' = φ(v)β{Z + (v/V)M}, M' = φ(v)β{M + (v/V)Z}
より、
Z' = φ(v)β{Z + (v/V)M}, (v/V)M' = φ(v)β{(v/V)M + (v/V)^2Z}
として差をとると、
Z' - (v/V)M' = φ(v)β{1 + (v/V)^2}Z
Z = {1/φ(v)}β{Z' - (v/V)M'}
であることがわかります。そして
L = {1/φ(v)}L'
また
M' = φ(v)β{M + (v/V)Z}, Z' = φ(v)β{Z + (v/V)M}
より、
M' = φ(v)β{M + (v/V)Z}, (v/V)Z' = φ(v)β{(v/V)Z + (v/V)^2M}
として差をとると、
M' - (v/V)Z' = φ(v)β{1 - (v/V)^2}M
M = {1/φ(v)}β{M' - (v/V)Z'}
であり、
N' = φ(v)β{N - (v/V)Y}, Y' = φ(v)β{Y - (v/V)N}
より、
N' = φ(v)β{N - (v/V)Y}, (v/V)Y' = φ(v)β{(v/V)Y - (v/V)^2N}
として加え合わせると、
N' + (v/V)Y' = φ(v)β{1 - (v/V)^2}N
N = {1/φ(v)}β{N' + (v/V)Y'}
であることがわかります。以上をまとめると、
X = {1/φ(v)}X', Y = {1/φ(v)}β{Y' + (v/V)N'}, Z = {1/φ(v)}β{Z' - (v/V)M'}
L = {1/φ(v)}L', M = {1/φ(v)}β{M' - (v/V)Z'}, N = {1/φ(v)}β{N' + (v/V)Y'}
が求める解です。
一方、静止系 K 系は、運動系 k 系に対して Ξ 軸の正の方向に速度 -v で一様に移動していますから、運動系 k 系から静止系 K 系に逆変換すると
X = φ(-v)X', Y = φ(-v)β{Y' + (v/V)N'}, Z = φ(-v)β{Z' - (v/V)M'}
L = φ(-v)L', M = φ(-v)β{M' - (v/V)Z'}, N = φ(-v)β{N' + (v/V)Y'}
と変換されることになりますが、この2組の方程式系は同じものでなければなりません。従って
φ(-v) = {1/φ(v)}
φ(v)φ(-v) = 1
を得ます。
さてここで、静止系 K 系で電場 (0,0,0) と磁場 (0,0,N) の場合の運動系 k 系での電場と磁場を考えます。
X' = 0, Y' = - φ(v)(βv/V)N, Z' = 0
L' = 0, M' = 0, N' = φ(v)βN
そして、ここで速度 v を -v に変更してみます。
X' = 0, Y' = φ(-v)(βv/V)N, Z' = 0
L' = 0, M' = 0, N' = φ(-v)βN
このとき、方向を別にすれば、場の成分 Y' と N' の絶対値は変わりませんから、
|φ(v)| = |φ(-v)|
が従います。つまり
{φ(v)}^2 = {φ(-v)}^2
{φ(v) + φ(-v)}{φ(v) - φ(-v)| = 0
です。しかし、
φ(v)φ(-v) = 1
より、φ(v) と φ(-v) は同符号でなければなりませんから、
φ(v) = φ(-v)
となり、
φ(v) = 1
が導かれました。以上の計算によって、真空中のマックスウェル-ヘルツの方程式が静止系 K 系から運動系 k 系へと変換されるのにともない、静止系 K 系での電場 (X,Y,Z) と磁場 (L,M,N) が運動系 k 系での電場 (X',Y',Z') と磁場 (L',M',N') とどのように関連付けられるのかが明らかになりました。
ここで計算を一段落とし、.続きは次回の投稿に譲ることにします。