アルベルト・アインシュタインの論文を読む

アインシュタインの論文に関する独断と偏見に満ちた読後報告です。

余談(その3)

 1995年公開の劇場版『ドラえもん のび太の創世日記』では、ドラえもんが未来デパートから取り寄せた「創世セット」で畳の下の亜空間に新たな宇宙を作り、地球型惑星の歴史を観察するという夏休みの自由研究の話が出てきます。ドラえもんが届いたセットを開けて、畳の上にシートを広げて亜空間を作り、瓶詰めに入ったクォークとレプトンとゲージ粒子を亜空間にばら撒き、まんべんなくかきまぜて新しい宇宙を作るのです。20世紀末に素粒子物理学の知見がここまで一般的になっていたことに驚きを禁じ得ません。


 さて、前回の閑話休題で電磁相互作用の光子が電荷を運ばないようにゲージ荷を運ばないゲージ粒子と、ウィークアイソスピンを運ぶウィークボゾン W_± やカラー荷を運ぶグルーオンのようなゲージ粒子があることについて述べました。


 今回はカラー荷について考えてみます。クォークのカラー荷は三原色 R, G, B に例えられます。そして観測にかかるハドロンとメソンを構成するクォークのカラー荷の和は無色であるとされています。無色をカラー荷 0 と考えれば、量子数としてのカラー荷は


+ + = 0


であるはずです。従って


+ = -B Y


B の補色である Y であれば無色であることになります。同様に


+ = -= C


R の補色である C を表し、


+ = -= M


G の補色である M を表すと考えられます。しかし、これらは数ではありません。電気素量


e = 1.602176634 × 10^(-19) C


のような実数では表されていません。確かに、R, G, B に実数を割り振って上の等式を満たすようにすることは出来そうにありません。では複素数ならばどうでしょうか。例えば3乗根


1,   ω = -(1/2) + (√3/2)i,   ω = -(1/2) - (√3/2)i = ω*


のような複素数を考えれば上の等式を満たすように R, G, B に複素数を割り当てることは出来ます。実際、円分方程式


z^6 = 1


の解を R, G, B, Y, C, M に割り当てて上の等式を満たすようにすることが可能です。


 複素数で良いのであれば、2次元の実数ベクトルでも良いはずです。とすればもっと良いものがあります。それはSU(3)群の基本表現 3, 3* のウエイトベクトルです。カラー空間の回転に対して、クォークは基本表現 3 に従って変換し、反クォークは基本表現 3* に従って変換するので、クォークと反クォークはそれぞれ、ウエイトベクトルをカラー荷と考えることができます。


 しかし困ったこともあります。カラー荷を運ぶグルーオンについては、クォークと反クォークののカラー荷を変えるという役割から、三原色 (R, G, B) とその補色 (Y, C, M) のカラー荷をそれぞれ2重に持つと考えられますが、BYRCGM という2重のカラー荷は無色なので、実際カラー荷をカラー荷を変えることが出来るのは6種類の2重カラー荷だけです。ですが、カラー空間の回転に対してリー群SU(3)のリー代数su(3)の随伴表現に従って変換するので、零でないルートベクトルをカラー荷と見做し、基本表現のウエイトベクトルと随伴表現のルートベクトルを同じ2次元実ベクトル空間のベクトルと考えて演算すればカラー荷は加法的量子数であると見做すことが可能になります。ルートベクトルに相当する固有値には零ベクトルが2個含まれます。これらはフレーバー荷を変えないウィークボゾン W_0 と同じ役割のゲージ粒子であると考えられます。


 では V - A 相互作用に限ってフレーバー荷であるウィークアイソスピンについても考えてみましょう。クォークのフレーバー荷はウィークアイソスピンの固有状態であると考えられます。フレーバー空間である2次元複素ベクトル空間の回転に対して、クォークは基本表現 2 に従って変換し、反クォークは基本表現 2* に従って変換します。この場合、SU(2) の表現は実表現で、基本表現 2 と基本表現 2* は同値です。従ってフレーバー空間の回転に対しては、基底ベクトルを上手く選んで表現行列を同じ形に出来ます。ウィークアイソスピンはの第3成分の固有値は ±(1/2) で、1次元のウエイトベクトルです。ゲージ粒子であるウィークボゾンはフレーバー空間の回転に対してリー群 SU(2) のリー代数 su(2) の随伴表現に従って変換するので、零でない1次元のルートベクトル ±1 をフレーバー荷と見做し、ウエイトベクトルとルートベクトルを同じ1次元実ベクトル空間のベクトルと考えて演算すればフレーバー荷は加法的量子数であると見做すことが可能になります。ここでルートベクトル 0 に属するフレーバー従って電荷を変えないウィークボゾンです。こうしてみれば、カラー荷を変えないグルーオンがあってもいいような気がしますが、きっと何か深遠な不具合があるのでしょう。

×

非ログインユーザーとして返信する