1905 年の論文「運動物体の電気力学」 B 電気力学の部(その7)
標記論文の B 電気力学の部
8 光線のエネルギーの変換.完全反射鏡にかかる放射圧の理論
という節を読みます。
一般に、電場 (X,Y,Z) と磁場 (L,M,N) の電磁場のエネルギー密度は
u = (1/8π){(X^2 + Y^2 + Z^2) + (L^2 + M^2 + N^2)}
です。静止系 K 系では十分な精度で、
X = X0 sinΦ, Y = Y0 sinΦ, Z = Z0 sinΦ
および
L = L0 sinΦ, M = M0 sinΦ, N = N0 sinΦ
で表されていますから、
u = (1/8π){(X0^2 + Y0^2 + Z0^2) + (L0^2 + M0^2 + N0^2)} sin^2Φ
= (1/8π)A^2(1 - cos 2Φ)
となります。ここで時間的、空間的平均のエネルギー密度を考えます。
Φ = ω{t - (ax + by + cz)/V}
ですから、cos 2Φ は
t = π/ω, x = π/ωa, y = π/ωb, z = π/ωc
の多重周期関数であることを考慮し、
La = na(π/ωa), Lb = nb(π/ωb), Lc = nc(π/ωc)
空間について、V^3 = LaLbLc で平均すると、
(1/V^3)∫∫∫V^3 u d^3x=(1/8π)A^2
となり、La、Lb、Lc 無関係で、時間にも依存しない値を得ます。また時間について
Lω = nωt(π/ω)
にわたり、t で平均しても、
(1/Lω)∫u dt=(1/8π)A^2
となります。自然数 n'_a',n'_b',n'_c',n'_ω' は任意なので、十分大きな自然数を選んで平均することにして、(1/8π)A'^2 を平面電磁波のエネルギー密度の平均であると考えることにします。すると、(1/8π)A'^2 は運動系 k 系での光の単位体積当たりのエネルギーと考えられます。
従って、もしも与えられた光線群の体積が静止系 K 系と運動系 k 系のどちらで測定されても同じであるならば、A'^2/A^2 は運動しているときに測定された電磁波のエネルギーと静止しているときに測定された電磁波のエネルギーとの比の値であるはずです。しかし、計算してみるとそうななりません。このことを示します。
a,b,c を静止系 K 系での電磁波の等位相面の法線の方向余弦とすると、光速度 V で運動している球面
(x-Vat)^2 + (y-Vbt)^2 + (z-Vct)^2 = R^2
の面素を通り抜けるエネルギーは存在しません。つまりこの球面はこの中に光線群を永久に閉じ込めると言えます。そこでこの面によって封じ込められた光のエネルギーの量を運動系 k 系から見たもの、すなわち運動系 k 系に対する光線群のエネルギーの量について調べることにします。運動系 k 系から静止系 K 系への逆変換
t = β{τ + (v/V^2)ξ}
x = β(ξ + vτ)
y = η
z = ζ
を用いて、静止系 K 系での球面を運動系 k 系に書き換えると、
[β(ξ + vτ)-Vaβ{τ + (v/V^2)ξ}]^2+[η-Vbβ{τ + (v/V^2)ξ}]^2+[ζ-Vcβ{τ + (v/V^2)ξ}]^2=R^2
となりますが、時刻 τ = 0 のときの曲面は、
{βξ - aβ(v/V)ξ}^2 + {η - bβ(v/V)ξ}^2 + {ζ - cβ(v/V)ξ}2 = R^2
の楕円体面となります。
そこで静止系 K 系で時刻 t = 0 での球面
x^2 + y^2 + z^2 = R^2
が囲む領域の体積 S = (4π/3)R^2 とこれを運動系 k 系へ変換して得られる楕円体面が囲む領域の体積 S' の比を考えます。アインシュタインはこの値が簡単な計算からわかると述べていますが、計算は簡単でも考え方は複雑です。
まず、静止系 K 系の (x,y,z) で表わされた球面が囲む領域の体積を考え直すことにします。球面の式を
(x/R)^2 + (x/R)^2 + (z/R)^2 = 1
と書き、楕円体
(x/A)^2 + (x/B)^2 + (z/C)^2 = 1
の体積の公式 V = (4π/3)ABC を用いると、この領域の体積 S = (4π/3)R^2 となることから、運動系 k 系の (ξ,η,ζ) で表わされた楕円体面の式を適切な変換によって (ξ,η,ζ) から (ξ',η',ζ') へと変数変換して
(ξ'/A')^2 + (η'/B')^2 + (ζ'/C')^2 = 1
と書き表わすことによって S'= (4π/3)A'B'C' が求まることに着目します。この式の書き換えは、2次形式
{βξ - aβ(v/V)ξ}^2 + {η - bβ(v/V)ξ}^2 + {ζ - cβ(v/V)ξ}2 = R^2
β^2{1 - a(v/V)}^2ξ^2 + η^2 - 2bβ(v/V)ξη + β^2b^2(v/V)^2ξ^2 + ζ^2 - 2cβ(v/V)ζξ + β^2c^2(v/V)^2ξ^2 = R^2
β^2{1 - 2a(v/V) + a^2(v/V)^2 + b^2(v/V)^2 + c^2(v/V)^2}ξ^2 + η^2 + ζ^2 - 2bβ(v/V)ξη - 2cβ(v/V)ζξ
= R^2
β^2{1 - 2a(v/V) + (v/V)^2}ξ^2 + η^2 + ζ^2 - 2bβ(v/V)ξη - 2cβ(v/V)ζξ = R^2
[β^2{1 - 2a(v/V) + (v/V)^2}/R^2]ξ^2 + (η/R)^2 + (ζ/R)^2 - 2{bβ(v/V)/R^2}ξη - 2{cβ(v/V)/R^2}ζξ = 1
の計算によって得られる2次形式の係数が作る行列を対角化することで可能となります。2次形式の係数行列は明らかに対称行列なので、直交行列によって対角化が可能です。そして対角化されて新たな係数となる (1/A')^2,(1/B')^2,(1/C')^2 は係数行列の固有値です。しかし、体積 S' の計算に係数行列の固有値そのものは必要ではなく、A'B'C'の値です。これは対角化された係数行列の行列式の逆数の平方根に他なりません。そして直交行列で対角化されることから、元の係数行列の行列式の行列式の逆数の平方根でもあります。
以上のことから、係数行列の行列式を計算すると、
β^2{1 - 2a(v/V) + (v/V)^2}/R^6 - b^2β^2(v/V)^2/R^6 - c^2β^2(v/V)^2/R^6
= β^2{1 - 2a(v/V) + (v/V)^2 - b^2(v/V)^2 - c^2(v/V)^2}/R^6
= β^2{1 - 2a(v/V) + a^2((v/V)^2}/R^6
= β^2{1 - a(v/V)}^2/R^6
= [β{1 - a(v/V)}/R^3]^2
となります。これより
S' = (4π/3)R^3/β{1 - a(v/V)} = S/β{1 - a(v/V)}
であることがわかります。よって
S'/S = √{1 - (v1/V)^2}/{1 - (v/V)cosφ}
です。ここで
a = cosφ
としました。これより楕円体面と球面に封じ込められているエネルギーは静止系 K 系で測定したものを E、運動系 k 系で測定したものを E とすると、
E'/E = {(A')^2/8πS'}/{(A')^2/8πS}
= (A'/A)^2(S'/S)
= [{1 - (v/V) cos φ}^2/{1 - (v/V)^2}]√[{1 - (v1/V)^2}/{1 - (v/V)cosφ}]
= {1 - (v/V) cos φ}/√{1 - (v/V)^2}
が得られます。そしてもし、φ = 0 であれば、
E'/E = √[{1 - (v/V)}/1 + (v/V)}]
となります。
アインシュタインはここで第7節の結果から
ν' = ν√[{1 - (v/V)}/{1 + (v/V)}]
であることを思い起こすと、光線群のエネルギーと振動数は観測者の運動状態に応じて同じ法則で変化することは注目に値すると述べています。
計算が簡単でもそこに至る考察が複雑であることに翻弄された投稿になりました。ここで一段落とし、続きは次回の投稿に譲ります。