アルベルト・アインシュタインの論文を読む

アインシュタインの論文に関する独断と偏見に満ちた読後報告です。

1905 年の論文「運動物体の電気力学」 B 電気力学の部(その8)

 長らく更新していませんでしたが、さぼっていたわけではなく、計算で苦労して投稿原稿をまとめることができませんでした。中学生程度の文字式の計算力ではやはり整合性のある結果に到達するのは難しいです。


 さて、標記論文の B 電気力学の部

8 光線のエネルギーの変換.完全反射鏡にかかる放射圧の理論

という節の続きを読みます。


 さて、完全反射面で平面電磁波が反射される現象を考察します。ξ = 0 の座標平面、つまり、Η 軸と Ζ 軸がつくる平面を完全反射面として、第7節で考察した平面電磁波がその平面で完全反射されるとします。そしてそのとき反射面にあかる光の圧力と、反射された後の光の進行方向、振動数、強度を調べることにします。


 第7節で考察した平面電磁波は、静止系 K 系では十分な精度で、


X = X0 sinΦ,  Y = Y0 sinΦ,  Z = Z0 sinΦ


および


L = L0 sinΦ,  M = M0 sinΦ,  N = N0 sinΦ


そして正弦進行波の時刻 t、空間座標 (x,y,z) での位相が電磁波の伝搬方向の方向余弦を (a,b,c) として、


Φ = ω{t - (ax + by + cz)/V}


で表されるものとされていました。ここで (X0,Y0,Z0)(L0,M0,N0) は直線偏光した電磁波の波列の振幅を定める電気力ベクトルと磁気力ベクトルでした。


 これらの関係式が運動系 k 系へと変換されて、


X' = X'0 sinΦ',  Y' = Y'0 sinΦ',  Z' = Z'0 sinΦ'


および


L' = L'0 sinΦ',  M' = M'0 sinΦ',  N' = N'0 sinΦ'


そして


Φ' = ω'{τ - (a'ξ + b'η + c'ζ)/V}


となったとすると、


X'0 = X0,  Y'0 = β{Y0 - (v/V)N0},  Z'0 = β{Z0 + (v/V)M0},


L'0 = L0,  M'0 = β{M0 + (v/V)Z0},  N'0 = β{N0 - (v/V)Y0},


ω' = ωβ{1 - a(v/V)},


a' = {a - (v/V)}/{1 - a(v/V)},  b' = b/β{1 - a(v/V)},  c' = c/β{1 - a(v/V)},


β = 1/√{1 - (v1/V)^2}


のように関係づけられることがわかっています。


 静止系 K 系で測定した入射光の電磁波の振幅、電気力または磁気力の振幅の2乗は、


A^2 = (X0)^2 + (Y0)^2 + (Z0)^2 = (L0)^2 + (M0)^2 + (N0)^2


です。そして入射光の伝搬方向と X 軸のなす角が φ であれば、X 軸方向の方向余弦は


a = cos φ


です。また入射光の振動数は、


ν = ω/2π


で与えられます。


 一方、運動系 k 系でみた振幅 A'ξ 軸(X 軸)方向への方向余弦 a' = cos φ'、振動数 ν' を、静止系 K 系の量と比較すると、第7節の計算結果から、


A' = A{1 - (v/V) cos φ}/√{1 - (v/V)^2}


cos φ' = {cos φ - (v/V)}/{1 - (v/V)cos φ}


ν' = ν{1 - (v/V) cos φ}/√{1 - (v/V)^2}


であることがわかっています。


 運動系 k 系の ξ = 0 の座標平面を完全反射面として、平面電磁波が完全反射される過程を運動系 k 系で考察すると、方向余弦 (a',b',c') の方向から入射した光は、振幅、振動数を変えず、ξ = 0 の平面で屈折することなく完全に方向余弦 (-a',b',c') の方向へ反射されることになります。従って反射光の振幅 A"ξ 軸と反射方向とがなす角 φ"、振動数 ν" はそれぞれ


A" = A'


cos φ" = -cos φ'


ν" = ν'


となります。これらを静止系 K 系での反射光の振幅 A~X 軸と反射方向とがなす角 φ~、振動数 ν~ でそれぞれを表せば、静止系 K 系は運動系 k 系の ξ 軸方向に対して速度 -v で移動していることを考慮すると


A~ = A"{1 + (v/V) cos φ"}/√{1 - (v/V)^2}


= A'{1 - (v/V) cos φ'}/√{1 - (v/V)^2}


= A{1 - (v/V) cos φ}{1 - (v/V) cos φ'}/{1 - (v/V)^2}


= A{1 - (v/V) cos φ}[1 - (v/V){cos φ - (v/V)}/{1 - (v/V)cos φ}]/{1 - (v/V)^2}


= A[1 - (v/V) cos φ - (v/V){cos φ - (v/V)}]/{1 - (v/V)^2}


= A{1 - 2(v/V) cos φ + (v/V)^2}/{1 - (v/V)^2},


cos φ~ = {cos φ" + (v/V)}/{1 + (v/V)cos φ"}


= [-{cos φ - (v/V)}/{1 - (v/V)cos φ} + (v/V)]/[1 - (v/V){cos φ - (v/V)}/{1 - (v/V)cos φ}]


= [-{cos φ - (v/V)} + (v/V){1 - (v/V)cos φ}]/[{1 - (v/V)cos φ} - (v/V){cos φ - (v/V)}]


= [-cos φ + (v/V) + (v/V) - (v/V)^2cos φ}]/[{1 - (v/V)cos φ} - (v/V){cos φ - (v/V)}]


= {-cos φ + (v/V) + (v/V) - (v/V)^2cos φ}/{1 - (v/V)cos φ - (v/V)cos φ + (v/V)^2}


= -[{1 + (v/V)^2}cos φ - 2(v/V)]/{1 - 2(v/V)cos φ + (v/V)^2},


ν~ = ν"{1 + (v/V) cos φ"}/√{1 - (v/V)^2}


= ν'{1 - (v/V) cos φ'}/√{1 - (v/V)^2}


ですが、


ν' = ν{1 - (v/V) cos φ}/√{1 - (v/V)^2},


1 - (v/V) cos φ' = 1 - (v/V){cos φ - (v/V)}/{1 - (v/V)cos φ}


なので


ν'{1 - (v/V) cos φ'}/√{1 - (v/V)^2}


= ν[{1 - (v/V)cos φ} - (v/V){cos φ - (v/V)}]/{1 - (v/V)^2}


= ν{1 - 2(v/V)cos φ + (v/V)^2}/{1 - (v/V)^2}


となります。


 さて、運動系 k 系の ξ = 0 の座標平面を完全反射面の単位面積当たり、単位時間に入射する平面電磁波のエネルギーを静止系 K 系で考えます。入射エネルギーの計算は、ξ = 0 の座標平面を完全反射面と考えずに、単位平面を単位時間に通過する電磁波のエネルギーを計算することで求められます。ξ = 0 の座標平面は Ξ 軸、従って X 軸に垂直です。今、ξ = 0 の座標平面が静止しているとすると、電磁波は単位時間にこの平面に、X 軸と角度 φ をなして入射し、V だけ進むので、入射エネルギーは単位面積を底面とする斜行している柱状領域の電磁場のエネルギーとして計算できます。この領域の体積は高さが V cos φ の柱状領域の体積で換算できます。しかし、ξ = 0 の座標平面は運動系 k 系の Η 軸と Ζ 軸が張る平面なので、静止系 K 系の X 軸の正の方向に速度 v で移動していることから、静止している場合より高さが v だけ柱状領域の体積が小さくなることがわかります。よって入射する平面電磁波の単位体積当たりの電磁場のエネルギーは、(A^2/8π)(V cos φ - v) となります。


 一方、平面電磁波は、X 軸と角度 φ~ をなして反射されますから、単位面積を底面として高さが V cos (π - φ~) で換算される柱状領域の体積に高さが v だけ柱状領域の体積を加えた領域の電磁場のエネルギーとして計算できます。従って、反射される平面電磁波の単位体積当たりの電磁場のエネルギーは、


[{A~}^2/8π]{V cos (π - φ) + v} = [{A~}^2/8π](- V cos φ ~+ v)


となります。


 このとき、エネルギー保存則が成り立つとすれば、入射するエネルギーと反射されるエネルギーの差は、光の圧力によって単位面積当たり単位時間に完全反射面になされる仕事に一致します。ここで光の圧力を P とすれば、単位面積当たり単位時間になされる仕事は、Pv です。


Pv = (A^2/8π)(V cos φ - v) - {(A~)^2/8π}(- V cos φ~ + v)


 これを静止系 K 系で計算します。


(A~)^2 = A^2{1 - 2(v/V) cos φ + (v/V)^2}^2/{1 - (v/V)^2}^2


- V cos φ~ + v = V[{1+(v/V)^2} cos φ - 2(v/V)]/{1 - 2(v/V) cos φ + (v/V)^2} + v


より


(A~)^2(- V cos φ~ + v)


= A^2V{1 - 2(v/V) cos φ + (v/V)^2}[{1 + (v/V)^2} cos φ - 2(v/V)]/{1 - (v/V)^2}^2
 + A^2v{1 - 2(v/V) cos φ + (v/V)^2}^2/{1 - (v/V)^2}^2


ですが、私には複雑な有理式なので、分母を払った形で計算を進めることにします。すると


{(A~)^2/A^2}(-Vcosφ~ + v){1 - (v/V)^2}^2


= {1 - 2(v/V)cosφ + (v/V)^2}[V{1+(v/V)^2}cosφ-2v+v{1 - 2(v/V)cosφ + (v/V)^2}]


= {1 - 2(v/V)cosφ + (v/V)^2}[Vcosφ + (v^2/V)cosφ - 2v + v - (2v^2/V)cosφ + (v^3/V^2)]


= {1 - 2(v/V)cosφ + (v/V)^2}[Vcosφ - (v^2/V)cosφ - v + (v^3/V^2)]


= {1 - 2(v/V)cosφ + (v/V)^2}[{V - (v^2/V)}cosφ - v{1 - (v/V)^2}]


= {1 - 2(v/V)cosφ + (v/V)^2}(Vcosφ - v){1 - (v/V)^2}


となりますから、


(A~)^2(-Vcosφ~ + v)=A^2{1 - 2(v/V)cosφ + (v/V)^2}(Vcosφ-v)/{1-(v/V)^2}


という計算結果になります。これで入射エネルギーと反射エネルギーの差を計算すると、


(A^2/8π)(Vcosφ - v)-{(A~)^2/8π}(-Vcosφ~ + v)


= (A^2/8π)(Vcosφ - v)[1-{1 - 2(v/V)cosφ + (v/V)^2}]/{1-(v/V)^2}


= (A^2/8π)(Vcosφ - v)[{1-(v/V)^2}-{1 - 2(v/V)cosφ + (v/V)^2}]/{1-(v/V)^2}


= (A^2/8π)(Vcosφ - v)[-(v/V)^2 + 2(v/V)cosφ - (v/V)^2}]/{1-(v/V)^2}


= 2(v/V)(A^2/8π)(Vcosφ - v){cosφ - (v/V)}/{1 - (v/V)^2}


= 2v(A^2/8π){cosφ - (v/V)}^2/{1 - (v/V)^2}


を得ます。つまり


Pv= 2v(A^2/8π){cosφ - (v/V)}^2/{1 - (v/V)^2}]


なので、光の圧力は


P= 2(A^2/8π){cosφ - (v/V)}^2/{1 - (v/V)^2}]


と求まります。ここで(v/V)≪1としての1次以上の項を無視すれば


P= 2(A^2/8π)cos^2φ


となって実験や他の理論と整合性のある結果となることを指摘しています。そして運動物体の光学の問題はすべて座標変換の方法で解くことができると主張しています。


 重要なことは、運動物体の影響を受けている光の電場と磁場を運動物体が静止している座標系に変換して考えることができるということです。そしてこの方法によれば、運動物体の光学の問題は静止物体の光学の問題となると主張しています。これで第8節を読み終えることができました。次はいよいよローレンツの理論です。

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