1905 年の論文「運動物体の電気力学」 B 電気力学の部(その9)
標記論文の B 電気力学の部
9 マックスウェル-ヘルツ方程式の変換.対流電流を考慮した場合
という節を読みます。
これまでは、真空中の自由空間でのマックスウェル-ヘルツの方程式に着目してきましたが、この節では電荷および電流がある場合のマックスウェル-ヘルツの方程式が取り上げられています。CGS ガウス単位系での静止系 K 系 (x,y,z,t) でこれらの方程式は
(1/V){uxρ + (∂X/∂t)} = (∂N/∂y) - (∂M/∂z), (1/V)(∂L/∂t) = (∂Y/∂z) - (∂Z/∂y)
(1/V){uyρ + (∂Y/∂t)} = (∂L/∂z) - (∂N/∂x), (1/V)(∂M/∂t) = (∂Z/∂x) - (∂X/∂z)
(1/V){uzρ + (∂Z/∂t)} = (∂M/∂x) - (∂L/∂y), (1/V)(∂N/∂t) = (∂Y/∂y) - (∂Z/∂x)
です。ここで、(X,Y,Z) は電気力のベクトル、つまり電場であり、(L,M,N) は磁気力のベクトル、つまり磁場を表しています。CGSガウス非有理化単位系が用いられているので、ここで、電荷密度と電場に関するガウスの法則
ρ = (∂X/∂x) + (∂Y/∂y) + (∂Z/∂z)
は、電荷密度に 4π を乗じたものであり、(ux,uy,uz) は電荷の速度ベクトルを表していますから、電荷密度と電流密度は荷電粒子によって作られていて、電流密度は (uxρ,uyρ,uzρ) となります。アインシュタインは小さな剛体にずっと拘束されているものを考えていて、それはイオンや電子とも考えられる荷電粒子です。この荷電粒子を電子と呼んでいます。また、磁場に関しても
(∂L/∂x) + (∂M/∂y) + (∂N/∂z)=0
が成り立ちます。これらの方程式はローレンツによる運動物体の電気力学および光学の電磁気学的基礎となるものです。これらの方程式が静止系 K 系 (x,y,z,t) で正しいとして、第3節と第6節で示した変換式を用いて、運動系 k 系 (ξ,η.ζ,τ) に変換します。第3節で導出した静止系 K 系から運動系 k 系への変換式
ξ = β(x - vt)
η = y
ζ = z
τ = β{t - (v/V^2)x}
を使って、実際に6個の式の変数変換を行います。これは、第6節で行った変数変換と同じですが、前回は電荷密度と電流密度がない場合の自由空間での電磁場の変数変換でした。今回は荷電粒子の電荷密度と電球密度がある場合の変数変換ですが、基本的な計算方法は同じですので、復習の意味でここでも繰り返すことにします。
合成関数の微分法に従えば、微分演算は、
∂/∂x = (∂ξ/∂x)(∂/∂ξ) + (∂τ/∂x)(∂/∂τ) = β(∂/∂ξ) - (vβ/V^2)(∂/∂τ)
∂/∂y = ∂/∂η
∂/∂z = ∂/∂ζ
∂/∂t = (∂ξ/∂t)(∂/∂ξ) + (∂τ/∂t)(∂/∂τ) = -vβ(∂/∂ξ) + β(∂/∂τ)
と変換されますから、静止系 K 系の量 (x,y,z,t) に関する微分を運動系 k 系の量 (ξ,η,ζ,τ) に関する微分に置き換えてこれらの方程式を書き換えることができます。まず第6節で行った計算と同様に、2行目以降の4本の式
(1/V){uyρ + (∂Y/∂t)} = (∂L/∂z) - (∂N/∂x), (1/V)(∂M/∂t) = (∂Z/∂x) - (∂X/∂z)
(1/V){uzρ + (∂Z/∂t)} = (∂M/∂x) - (∂L/∂y), (1/V)(∂N/∂t) = (∂Y/∂y) - (∂Z/∂x)
について変数変換をします。これらの式は微分演算を書き換えるだけで
(1/V){uyρ - vβ(∂Y/∂ξ) + β(∂Y/∂τ)} = (∂L/∂ζ) - β(∂N/∂ξ) + (vβ/V^2)(∂N/∂τ)
(1/V)uyρ + (β/V)(∂Y/∂τ) - (vβ/V^2)(∂N/∂τ) = (∂L/∂ζ) - β(∂N/∂ξ) + (v/V)β(∂Y/∂ξ)
(1/V)[uyρ + (∂/∂τ)β{Y - (v/V)N}] = (∂L/∂ζ) - (∂/∂ξ)β{N - (v/V)Y}
となり、
(1/V){uzρ - vβ(∂Z/∂ξ) + β(∂Z/∂τ)} = β(∂M/∂ξ) - (vβ/V^2)(∂M/∂τ) - (∂L/∂η)
(1/V)uzρ + (1/V)β(∂Z/∂τ) + (vβ/V^2)(∂M/∂τ)} = β(∂M/∂ξ) + (v/V)β(∂Z/∂ξ) - (∂L/∂η)
(1/V)[uzρ + (∂/∂τ)β{Z + (v/V)M}] = (∂/∂ξ)β{M + (v/V)Z} - (∂L/∂η)
となり、
(1/V){-vβ(∂M/∂ξ) + β(∂M/∂τ)} = β(∂Z/∂ξ) - (vβ/V^2)(∂Z/∂τ) - (∂X/∂ζ)
(1/V)β(∂M/∂τ) + (vβ/V^2)(∂Z/∂τ) = β(∂Z/∂ξ) + (v/V)β(∂M/∂ξ) - (∂X/∂ζ)
(1/V)(∂/∂τ)β{M + (v/V)Z}^2 = (∂/∂ξ)β{Z + (v/V)M} - (∂X/∂ζ)
となり、
(1/V){-vβ(∂N/∂ξ) + β(∂N/∂τ)} = (∂X/∂η) - {β(∂Y/∂ξ) - (vβ/V^2)(∂Y/∂τ)}
(1/V)β(∂N/∂τ) - (vβ/V^2)(∂Y/∂τ)= (∂X/∂η) - {β(∂Y/∂ξ) - (v/V)β(∂N/∂ξ)}
(1/V)(∂/∂τ)β{N - (v/V)Y} = (∂X/∂η) - (∂/∂ξ)β{Y - (v/V)N}
となります。
一方、1行目の2本の式
(1/V){uxρ + (∂X/∂t)} = (∂N/∂y) - (∂M/∂z), (1/V)(∂L/∂t) = (∂Y/∂z) - (∂Z/∂y)
については、微分演算を書き換えるだけでは ξ に関する微分が表れてしまい、このままでは処理できないので、ガウスの法則を用いて処理することになります。まず左の式の微分演算を書き換えると
(1/V)[uxρ - vβ(∂X/∂ξ) + β(∂X/∂τ)] = (∂N/∂η) - (∂M/∂ζ)
となりますが、ξ についての微分を電場に関するガウスの法則
ρ = (∂X/∂x) + (∂Y/∂y) + (∂Z/∂z)
の微分演算を書き換えたもの
ρ = β(∂X/∂ξ) - (vβ/V^2)(∂X/∂τ) + (∂Y/∂ηy) + (∂Z/∂ζ)
β(∂X/∂ξ) = ρ + (vβ/V^2)(∂X/∂τ) - (∂Y/∂ηy) - (∂Z/∂ζ)
を用いて書き換えると、
(1/V)[uxρ - vρ - β(v/V)^2(∂X/∂τ) + v(∂Y/∂η) + v(∂Z/∂ζ) + β(∂X/∂τ)] = (∂N/∂η) - (∂M/∂ζ)
(1/V)[(ux - v)ρ + β{1 - (v/V)^2}(∂X/∂τ)] = (∂/∂η){N - (v/V)Y} - (∂/∂ζ){M + (v/V)Z}
(1/V)[β(ux - v)ρ + (∂X/∂τ)] = (∂/∂η)β{N - (v/V)Y} - (∂/∂ζ)β{M + (v/V)Z}
となります。また同様に右の式についても、
(1/V){-vβ(∂L/∂ξ) + β(∂L/∂τ)} = (∂Y/∂ζ) - (∂Z/∂η)
となりますが、ξ についての微分を磁場に関するガウスの法則
(∂L/∂x) + (∂M/∂y) + (∂N/∂z) = 0
の微分演算を書き換えたもの
{β(∂L/∂ξ) - (vβ/V^2)(∂L/∂τ)} + (∂M/∂η) + (∂N/∂ζ) = 0
β(∂L/∂ξ) = (vβ/V^2)(∂L/∂τ) - (∂M/∂η) - (∂N/∂ζ)
によって書き換えると、
(1/V)β(∂L/∂τ) = (v^2β/V^3)(∂L/∂τ) + (∂Y/∂ζ) - (∂Z/∂η) - (v/V)(∂M/∂η) - (v/V)(∂N/∂ζ)
(β/V){1 - (v^2/V^2)}(∂L/∂τ) = (∂/∂ζ){Y - (v/V)N} - (∂/∂η){Z - (v/V)M}
(1/V)(∂L/∂τ) = (∂/∂ζ)β{Y - (v/V)N} - (∂/∂η)β{Z - (v/V)M}
となります。
以上をまとめると、静止系 K 系における電荷密度と電流密度がある場合ののマックスウェル-ヘルツの方程式
(1/V){uxρ + (∂X/∂t)} = (∂N/∂y) - (∂M/∂z), (1/V)(∂L/∂t) = (∂Y/∂z) - (∂Z/∂y)
(1/V){uyρ + (∂Y/∂t)} = (∂L/∂z) - (∂N/∂x), (1/V)(∂M/∂t) = (∂Z/∂x) - (∂X/∂z)
(1/V){uzρ + (∂Z/∂t)} = (∂M/∂x) - (∂L/∂y), (1/V)(∂N/∂t) = (∂Y/∂y) - (∂Z/∂x)
は運動系 k 系では
(1/V)[β(ux - v)ρ + (∂X/∂τ)] = (∂/∂η)β{N - (v/V)Y} - (∂/∂ζ)β{M + (v/V)Z}
(1/V)[uyρ + (∂/∂τ)β{Y - (v/V)N}] = (∂L/∂ζ) - (∂/∂ξ)β{N - (v/V)Y}
(1/V)[uzρ + (∂/∂τ)β{Z + (v/V)M}] = (∂/∂ξ)β{M + (v/V)Z} - (∂L/∂η)
および
(1/V)(∂L/∂τ) = (∂/∂ζ)β{Y - (v/V)N} - (∂/∂η)β{Z - (v/V)M}
(1/V)(∂/∂τ)β{M + (v/V)Z}^2 = (∂/∂ξ)β{Z + (v/V)M} - (∂X/∂ζ)
(1/V)(∂/∂τ)β{N - (v/V)Y} = (∂X/∂η) - (∂/∂ξ)β{Y - (v/V)N}
と変数変換されることになります。そして
β = 1/√{1 - (v1/V)^2}
です。
ここで第6節で見出されたように、静止系 K 系から運動系 k 系へと座標変換されるのにともない、静止系 K 系での電場 (X,Y,Z) と磁場 (L,M,N) が運動系 k 系での電場 (X',Y',Z') と磁場 (L',M',N') と
X' = X, Y' = β{Y - (v/V)N}, Z' = β{Z + (v/V)M}
および
L' = L, M' = β{M + (v/V)Z}, N' = β{N - (v/V)Y}
のような関係式で結ばれるとすると、電磁場に関しては静止系 K 系でも運動系 k 系でも同じ形の法則、マックスウェル-ヘルツの方程式が期待できます。そこで次は、静止系 K 系での ρ と (uxρ,uyρ,uzρ) が運動系 k 系においてどのように書けるのかを考えます。しかし計算が長くなりましたので、ここで一段落とし、続きは次の投稿に譲りたいと思います。