1905年の論文「分子の大きさを求める新手法」(その8)
前回、球面に及ぼされる圧力の座標成分
X_n = kξ{2A - (5AP^3/ρ^3) + 20FP^3}/ρ,
Y_n = kη{2B - (5BP^3/ρ^3) + 20FP^3}/ρ,
Z_n = kζ{2C - (5CP^3/ρ^3) + 20FP^3}/ρ,
か計算できました。ということで標記論文の第1節
1. 液体中に浮かぶ微小な球が,液体に及ぼす影響
の続きを読みます。いよいよ圧力の座標成分と速度場
u = ξ{A - (5/2)FP^3},
v = η{B - (5/2)FP^3},
w = ζ{C - (5/2)FP^3},
との内積を半径 R の球面上での面積分
W = ∫∫(X_nu + Y_nv + Z_nw) dS
を実行して、液体中の熱に転換される単位時間当たりのエネルギーを評価し用と思います。ただし、
ρ=√(ξ^2 + η^2 + ζ^2), F=(Aξ^2 + Bη^2 + Cζ^2)/ρ^5
です。被積分関数 X_nu + Y_nv + Z_nw を計算するために各項を整理していきます。
X_nu = k{2A - (5AP^3/ρ^3) + 20FP^3}{A - (5/2)FP^3}ξ^2/ρ
= k[{2 - (5P^3/ρ^3)}A + 20FP^3]{A - (5/2)FP^3}ξ^2/ρ
= k[{2 - (5P^3/ρ^3)}A^2 - (5/2)FP^3{2 - (5P^3/ρ^3)}A + 20FP^3A - 50F^2P^6]ξ^2/ρ
= k[{2 - (5P^3/ρ^3)}A^2 - 5FP^3{3 + (5/2)P^3/ρ^3}A - 50F^2P^6]ξ^2/ρ,
Y_nv = k{2B - (5BP^3/ρ^3) + 20FP^3}{B - (5/2)FP^3}η^2/ρ
= k[{2 - (5P^3/ρ^3)}B + 20FP^3]{B - (5/2)FP^3}η^2/ρ
= k[{2 - (5P^3/ρ^3)}B^2 - (5/2)FP^3{2 - (5P^3/ρ^3)}B + 20FP^3B - 50F^2P^6]η^2/ρ
= k[{2 - (5P^3/ρ^3)}B^2 + 5FP^3{3 + (5/2)P^3/ρ^3}B - 50F^2P^6]η^2/ρ,
Z_nw = k{2C - (5CP^3/ρ^3) + 20FP^3}{C - (5/2)FP^3}ζ^2/ρ
= k{{2 - (5P^3/ρ^3)}C + 20FP^3]{C - (5/2)FP^3}ζ^2/ρ
= k{{2 - (5P^3/ρ^3)}C^2 - (5/2)FP^3{2 - (5P^3/ρ^3)}C + 20FP^3C - 50F^2P^6]ζ^2/ρ
= k{{2 - (5P^3/ρ^3)}C^2 + (5FP^3{3 + (5/2)P^3/ρ^3}C - 50F^2P^6]ζ^2/ρ.
これらより被積分関数 X_nu + Y_nv + Z_nw を求めます。
X_nu + Y_nv + Z_nw
= (k/ρ){2 - (5P^3/ρ^3)}(A^2ξ^2 + B^2η^2 + C^2ζ^2)
+ (k/ρ)5FP^3{3 + (5/2)P^3/ρ^3}(Aξ^2 + Bη^2 + Cζ^2) - (k/ρ)50F^2P^6(ξ^2 + η^2 + ζ^2)
であることから
(Aξ^2 + Bη^2 + Cζ^2) = Fρ^5
を用いると
X_nu + Y_nv + Z_nw
= (k/ρ){2 - (5P^3/ρ^3)}(A^2ξ^2 + B^2η^2 + C^2ζ^2) + 5kρF^2P^3{3ρ^3 + (5/2)P^3} - kρ50F^2P^6
= (k/ρ){2 - (5P^3/ρ^3)}(A^2ξ^2 + B^2η^2 + C^2ζ^2) + 5kρF^2P^3{3ρ^3 + (5/2)P^3 - 10P^3}
= (k/ρ){2 - (5P^3/ρ^3)}(A^2ξ^2 + B^2η^2 + C^2ζ^2) + 15kρF^2P^3{ρ^3 - (5/2)P^3}
= (k/ρ){2 - (5P^3/ρ^3)}(A^2ξ^2 + B^2η^2 + C^2ζ^2) + 15kρ^4F^2P^3 - (75/2)kρF^2P^6
= (k/ρ){2 - (5P^3/ρ^3)}(A^2ξ^2 + B^2η^2 + C^2ζ^2) + 15k(P^3/ρ^6)(Aξ^2 + Bη^2 + Cζ^2)^2
- (75/2)k(P^6/ρ^9)(Aξ^2 + Bη^2 + Cζ^2)^2
となりますので、P^3/ρ^3 に対して P^5/ρ^5 以上の項を無視する近似をとって被積分関数を
X_nu + Y_nv + Z_nw
= {(2k/ρ) - (5kP^3/ρ^4)}(A^2ξ^2 + B^2η^2 + C^2ζ^2) + 15k(P^3/ρ^6)(Aξ^2 + Bη^2 + Cζ^2)^2
と評価します。これより半径 R の球面上での面積分
W = ∬(X_nu + Y_nv + Z_nw) dS
は、ξ,η,ζ の多項式の積分となることがわかります。
そこであらかじめ各多項式の定積分値を求めておくことにします。まず半径 R の球の表面積は、4πR^2 であることから
∬ dS = 4πR^2
が従います。そこで、∫∫ ξ^2 dS,∫∫ η^2 dS,∫∫ ζ^2 dS を考えます。半径 R の球面全体での積分であることから対称性によって、
∬ ξ^2 dS =∬ η^2 dS =∬ ζ^2 dS
であることがわかります。従って
∬ ξ^2 dS +∬ η^2 dS +∬ ζ^2 dS =∬(ξ^2 + η^2 + ζ^2) dS = R^2∬ dS = 4πR^4
であることから
∬ ξ^2 dS =∬ η^2 dS =∬ ζ^2 dS = (4/3)πR^4
と求まります。
次に、4次の項 ∬ ξ^4 dS,∬ η^4 dS,∬ ζ^4 dS,∬ ξ^2η^2 dS,∬ η^2ζ^2 dS,∬ ζ^2ξ^2 dS を考えます。半径 R の球面全体での積分であることから対称性によって、
∬ ξ^4 dS =∬ η^4 dS =∬ ζ^4 dS, ∬ ξ^2η^2 dS =∬ η^2ζ^2 dS =∬ ζ^2ξ^2 dS
であることがわかります。この積分は直交座標 (ξ,η,ζ) から球座標 (ρ,θ,φ)
ξ = ρsinθcosφ, η = ρsinθsinφ, ζ = ρcosθ
に変更して ρ = R の球面上の領域
{(θ,φ) | 0≦θ≦π,0≦φ≦2π}
で行うのが便利です。
ζ^4=ρ^4cos^4θ
dS=R^2sinθdθdφ
これより半径 ρ=R の球面上の積分 ∬ζ^4 dS を実行すると、
∬ ζ^4 dS =∬(R^4cos^4θ) R^2sinθdθdφ = 2πR^6 ∫ (cosθ)^4 d(-cosθ)
となることからとなることから置換積分 x = cosθ によって
∬ζ^4 dS =-2πR^6[x^5/5]^(-1)_1 = (4/5)πR^6
となり
∬ξ^4 dS =∬η^4 dS =∬ζ^4 dS = (4/5)πR^6
を得ます。従って、半径 R の球面全体での積分の対称性によって、
∬(ξ^2 + η^2 + ζ^2)^2 dS = ∬(ξ^4 + η^4 + ζ^4 + 2ξ^2η^2 + 2η^2ζ^2 + 2ζ^2ξ^2)dS
4πR^6 = (12/5)πR^6 + 6∬ξ^2η^2dS
∬ξ^2η^2 dS = (4/15)πR^6
となることから
∬ξ^2η^2 dS =∬η^2ζ^2 dS =∬ζ^2ξ^2 dS = (4/15)πR^6
であることもわかります。さらにこれらの結果から
∬(Aξ^2 + Bη^2 + Cζ^2)^2 dS = ∬(A^2ξ^4 + B^2η^4 + C^2ζ^4 + 2ABξ^2η^2 + 2BCη^2ζ^2 + 2CAζ^2ξ^2)dS
= (4/5)(A^2 + B^2 + C^2)πR^6 + (4/15)(2AB + 2BC + 2CA)πR^6
= (4/15)πR^6(3A^2 + 3B^2 + 3C^2 + 2AB + 2BC + 2CA)
=(4/15)πR^6{2(A^2 + B^2 + C^2) + (A + B + C)^2}=(8/15)πR^6(A^2 + B^2 + C^2)
の面積分の値が計算されます。ここで非圧縮性の条件
A + B + C = 0
を用いて評価しています。
以上で準備ができましたので半径 R の球面上での面積分
W = ∬(X_nu + Y_nv + Z_nw) dS
を実行します。その結果、
W = ∬(X_nu + Y_nv + Z_nw) dS
= ∬{(2k/R) - (5kP^3/R^4)}(A^2ξ^2 + B^2η^2 + C^2ζ^2) + 15k(P^3/R^6)(Aξ^2 + Bη^2 + Cζ^2)^2}dS
= {(2k/R) - (5kP^3/R^4)} ∬(A^2ξ^2 + B^2η^2 + C^2ζ^2) dS+15k(P^3/R^6)∬(Aξ^2 + Bη^2 + Cζ^2)^2dS
= {(2k/R) - (5kP^3/R^4)}(4/3)(A^2 + B^2 + C^2)πR^4 + 15k(P^3/R^6)(8/15)πR^6(A^2 + B^2 + C^2)
= (4π/3){2kR^3 - 5kP^3}(A^2 + B^2 + C^2) + 8πkP^3(A^2 + B^2 + C^2)
= (8πkR^3/3)(A^2 + B^2 + C^2) + {8 - (20/3)πkP^3(A^2 + B^2 + C^2)
= (8πkR^3/3)(A^2 + B^2 + C^2) + (4/3)πkP^3(A^2 + B^2 + C^2)
という計算結果を得ます。ここで領域 G の体積と剛体球の体積を
V=(4/3)πR^3, Φ=(4/3)πP^3
とおくと、
δ^2 = A^2 + B^2 + C^2
として
W = 2kδ^2 {V + (Φ/2)}
という結論に達します。このことからもしも浮遊する剛体球が存在しない場合には、
Φ=0
とおいて、体積 V の中で単位時間あたりに散逸するエネルギーが
W_0 = 2kδ^2 V
であることがわかりります。このように剛体球が存在することによって、散逸エネルギーは kδ^2Φ だけ増加することが分かりました。
さて、アインシュタインのこの後の考察は誤った計算結果に基づくもので、最終的には第1節の最後の部分は削除されたということなので、私の報告もここまでにとどめておきます。随分と長い時間かかってやっと標記論文の第1節を読み終えることができました。次回からは第2節の読後報告を投稿したいと思います。