アルベルト・アインシュタインの論文を読む

アインシュタインの論文に関する独断と偏見に満ちた読後報告です。

1905 年の論文「運動物体の電気力学」 A 運動学の部(その4)

 標記論文の

3 座標および時間の変換理論:静止系から、それに対して等速度で並進運動をしている別の座標系へ

という節の半ばまで読み進めてきました。そして、関数 τ(x',y,z,t) が満たすべき偏微分方程式


(∂τ/∂x') + {v/(V^2 - v^2)}(∂τ/∂t) = 0


(∂τ/∂y) = 0


(∂τ/∂z) = 0


を見出すことができました。いよいよ佳境に入ってきたような気がします。これらの偏微分方程式を頼りに、関数 τ(x',y,z,t) を見つけ出すことにします。ここからは話題が座標変換式の導出に移ります。


 先ず、関数 τ(x',y,z,t)yz には依存しないことが分かります。また時間と空間の一様性からこの関数は一次関数でなければならないと述べられていました。そこで


τ = at + bx'


と置きます。偏微分方程式に代入すれば、


b + a{v/(V^2 - v^2)} = 0


でなければならないことが分かります。よって


τ = a[t - {v/(c^2 - v^2)}x']


であることが分かりました。アインシュタインは、係数 av の関数である可能性を指摘し、関数 φ(v) としています。


 ここで運動系 k 系と静止系 K 系の関係をさらに簡単化します。運動系 K 系の時刻が t= 0 のとき、運動系 k 系の原点 (0,0,0) の時刻 τ = 0 であるとします。運動系 k 系の各空間座標点に置かれた時計は全て同期しているので、この瞬間に運動系 k 系では全ての空間座標点において (ξ,η,ζ,0) です。一方、静止系 K 系におても時刻が t= 0 の瞬間に静止系 K 系の各空間座標点に置かれた時計は全て同期しているので、全ての空間座標点において (x,y,z,0) です。以上のことを踏まえて運動系 k 系で時刻 τ のときの座標点 (ξ,η,ζ) と静止系 K 系で時刻 t のときの座標点 (x,y,z) を容易に関係づけることが出来ると述べています。


 特殊相対性原理と光速度不変の原理によれば、光は運動系 k 系に対しても光速度 V で伝搬しなければなりません。今、運動系 k 系の原点 (0,0,0) から時刻 τ = 0Ξ 軸方向に光が照射されたとすると、時間の経過と共に光は


ξ = Vτ


まで到達することになります。このとき、(ξ,0,0)Ξ 軸上の座標点ですから当然運動系 k 系に対して静止している座標点です。するとそのときの時刻は


τ = a[t - {v/(V^2 - v^2)}x']


ですから、


ξ = Va[t - {v/(V^2 - v^2)}x']


と書けます。ここで静止系 K 系で時刻 t のときの座標点 (x,y,z) に対して


ξ = x' = x - vt,   η = y,   ζ = z


は運動系 k 系に対して静止している座標点を表すことを思い起こすと、運動系 k 系の原点から照射された光が到達した座標点 (ξ,0,0) は、Ξ 軸上の固定点なので、静止系 K 系では X 軸方向の正の方向に速度 v で移動し、


x = ξ + vt,   y = η = 0,   z = ζ = 0


に到達していますから


x = Vt = ξ + vt


ξ = (V - v)t


です。従って今の場合、


t = ξ/(V - v) = (x - vt)/(V - v) = x'/(V - v)


なので、


ξ = Va[t - {v/(V^2 - v^2)}x'] = a{V^2/(v^2 - v^2)}x'


となります。


同様に、運動系 k 系の原点から時刻 τ = 0 に原点から Η 軸方向に光が照射されたとすると、時間の経過と共に光は


η = Vτ


まで到達することになります。このとき、(0,η,0)Η 軸上の座標点ですから当然運動系 k 系に対して静止しています。するとやはり


τ = a[t - {v/(V^2 - v^2)}x']


ですから、


η = Va[t - {v/(V^2 - v^2)}x']


と書けます。


一方、運動系 k 系の原点から照射された光が到達した座標点 (0,η,0)Η 軸上の固定点なので、静止系 K 系では X 軸方向に速度 v で移動し、


x = vt,   y = η,   z = ζ = 0


に到達していますから


x^2 + y^2 = V^2t^2


y^2 = V^2t^2 - v^2t^2


つまり


x' = x - vt = 0


y = η = t√(V^2 - v^2)


です。従って今の場合、


t = y/√(V^2 - v^2)


なので


η = Vay/√(V^2 - v^2)


となります。また同様に、k 系の原点から時刻 τ = 0 に原点から Ζ 軸方向に光が照射されたとすると、時間の経過と共に光は


ζ = Vτ


まで到達することになります。このとき、(0,0,ζ)Ζ 軸上の座標点ですから当然運動系 k 系に対して静止しています。従って Η 軸に関する計算と全く同じ手法で計算すれば、


ζ = Vaz/√(V^2 - v^2)


となります。


従って、k 系の原点から時刻 τ = 0 に原点から Ξ 軸、Η 軸、Ζ 軸方向への光の照射の考察から


τ = a[t - {v/(V^2 - v^2)}x']


ξ = a{V^2/(V^2 - v^2)}x'


η = Vay/√(V^2 - v^2)


ζ = Vaz/√(V^2 - v^2)


が得られました。また、x' = x - vt と書き直すと、


τ = a{t(V^2 - v^2) - v(x - vt)}/(V^2 - v^2) = a(V^2t - vx)/(V^2 - v^2) = a{t - (v/V^2)x}/{1 - (v/V)^2}


となりますから、


β = 1/√{1 - (v/V)^2}


と置き、改めて未知関数を


φ(v) = aβ


と置き直せば、


τ = φ(v)β{t - (v/V^2)x}


ξ = φ(v)β(x - vt)


η = φ(v)y


ζ = φ(v)z


となります。ここではまだ関数 φ(v)v の未知関数のままですので、完全な変換式が得られたわけではありません。また、静止系 K 系と運動系 k 系の初期時刻を t = τ = 0 と一致させて、その瞬間には両座標原点、あるいは同じ事ですが両座標軸が重なっていることを仮定しましたので、その仮定をしないのであれば、変換式の右辺に定数項が付け加わることが述べられています。


 ここまで来てアインシュタインは、座標変換式を確定させることを中断して、別の考察を加えています。というのは光速度不変の原理で仮定されていたように、もしも静止系で光線が速度 V で伝わるのであれば、運動系で測定した光線も速度 V で伝わることを証明しなければならないと述べています。しかし、この理論構築のための作業仮説であった光速度不変の原理を証明するというのは難しいことだと思われます。アインシュタインもその点は承知しているようで、光速度一定の原理が相対性原理と両立することは証明されていないと言い直しています。


 静止系 K 系の時刻 t = 0 に静止系 K 系の原点の位置にある光源から光の球面波が出るとします。この時刻には運動系 k 系の時刻も τ = 0 であり、両座標原点は重なっています。そして光の球面波は静止系 K 系に対して速度 V で伝搬するものとします。従って静止系 K 系の時刻 t における球面波の到達点のひとつが静止系 K 系の座標点 (x,y,z) であるとすると、


x^2 + y^2 + z^2 = V^2t^2


が成り立ちます。この等式を上の変換式を使って運動系 k 系に変換して、ξ^2 + η^2 + ζ^2 を求めてみます。


ξ^2 = {φ(v)}^2β^2(x - vt)^2


η^2 = {φ(v)}^2y^2


ζ^2 = {φ(v)}^2z^2


ですから


ξ^2 + η^2 + ζ^2 = {φ(v)}^2{β^2(x - vt)^2 + y^2 + z^2}


となります。ここで


y^2 + z^2 = V^2t^2 - x^2


で置き換えて計算すると、


ξ^2 + η^2 + ζ^2 = {φ(v)}^2β^2{(x - vt)^2 + (V^2t^2 - x^2)(V^2-v^2)/V^2}


= {φ(v)}^2β^2{V^2(x^2 - 2xvt + v^2t^2) + (V^4t^2 - x^2V^2 - V^2t^2v^2 + v^2x^2)}/V^2


= {φ(v)}^2β^2(V^4t^2-2V^2vxt+v^2x^2)/V^2


= {φ(v)}^2β^2(V^2t - vx)^2/V^2


= V^2{φ(v)}^2β^2{t - (v/V^2)x}^2


ですから時刻 τ の変換式から、


ξ^2 + η^2 + ζ^2 = V^2τ^2


となり、やはり運動系 k 系から見ても光速度 V で伝搬する球面波となります。この計算結果は特殊相対性原理と光速度不変の原理の2つの基本原理は両立することが示しています。


 さて、座標変換式の導出に戻ります。ここからは、未知関数 φ(v) を求めることになります。そのためにアインシュタインは第3の座標系 K' 系を導入しました。


 第3の座標軸 K' 系の座標軸 X' 軸、Y' 軸、Z' 軸は、運動系 k 系の座標軸 Ξ 軸、Η 軸、Ζ 軸に対してそれぞれ平行の位置関係にあります。そして第3の座標軸 K' 系の原点は運動系 k 系の Ξ 軸の正の方向に速度 -v で移動しているとします。つまり運動系 k 系の Ξ 軸の負の方向に速さ v で移動しているということです。なお、静止系 K 系の時刻 t = 0 において、静止系 K 系、運動系 k 系、第3の座標系 K' 系の3つの座標原点は一致していてるものとします。そしてその瞬間に、運動系 k 系の時刻 τ = 0、第3の座標系 K' 系の時刻 t' = 0 であるとします。


 こうすることで、静止系 K 系から運動系 k 系への座標変換、運動系 k 系から 第3の座標系 K' 系への座標変換は既に求めている変換式で可能になります。運動系 k 系はその原点が静止系 K 系の X 軸の正の方向に速度 v で移動していて、静止系 K 系の時刻 t のときの空間座標 (x,y,z) は、 座標変換によって


τ = φ(v)β(v){t - (v/V^2)x}


ξ = φ(v)β(v)(x - vt)


η = φ(v)y


ζ = φ(v)z


と変換されます。ここで、


β = 1/√{1 - (v/V)^2} = β(v)


としています。第3の座標系 K' 系の原点は、運動系 k 系の Ξ 軸の負の方向に速度 v、つまり Ξ 軸の正の方向に速度 -v で移動していますから、運動系 k 系の時刻 τ のときの空間座標 (ξ,η,ζ) は、座標変換によって


t' = φ(-v)β(-v){τ - (-v/V^2)ξ}


x' = φ(-v)β(-v){ξ - (-v)τ}


y' = φ(-v)η


z' = φ(-v)ζ


と変換されます。さらにこの点について調べます。

さきほどの変換式を2回使うことによって,

とありますから、静止系 K 系から第3の座標系 K' 系への座標変換を考えるということになります。


t' = φ(-v)β(-v)φ(v)β(v)[{t - (v/V^2)x} - (-v/V^2)(x - vt)] = φ(-v)φ(v)t


x' = φ(-v)β(-v)φ(v)β(v)[(x - vt) - (-v){t - (v/V^2)x}] = φ(-v)φ(v)x


y' = φ(-v)η = φ(-v)φ(v)y


z' = φ(-v)ζ = φ(-v)φ(v)z


 ここで、静止系 K 系の座標 (x,y,z) と第3の座標系 K' 系の座標 (x',y',z') の関係式には t が含まれていないことから、静止系 K 系の任意の時刻で成立する関係であることがわかります。このことから静止系 K 系の空間座標系と第3の座標系 K' の空間座標系は互いに他に対して静止していることになります。


 実際、第3の座標系 K' 系の原点は運動系 k 系に対して速度 -vΞ 軸上を移動しています。そして互いの座標軸は平行です。運動系 k 系の原点は静止系 K 系に対して速度 vX 軸上を移動しています。互いの座標軸は平行です。ということは静止系 K 系の原点が運動系 k 系に対して速度 -v で Ξ 軸上を移動していることになります。従って、第3の座標系 K' 系は静止系 K 系に対して静止していることになります。第3の座標系 K' 系の時刻が t' = 0 のとき、静止系 K 系の時刻は t = 0 で両座標の原点は一致していました。よって第3の座標系 K' 系は静止系 K 系と全ての時刻で、重なっていることになります。このことは静止系 K 系から第3の座標系 K' 系への座標変換は恒等変換でなければなりません。よって、


φ(v)φ(-v) = 1


が従います。


 ここでいよいよ関数 φ(v) の意味を調べることになります。ここからはまた静止系 K 系と運動系 k 系の関係に戻ります。アインシュタインは運動系 k 系の Η 軸上の2つの座標点 (0,0,0)(0,l,0) の間の Η 軸の部分に注目しました。座標軸の材質から考えて、Η 軸のこの部分は静止系 K 系の X 軸に対して垂直の位置関係を保ちつつ、速度 v で動いている剛体の棒とみなせます。静止系 K 系から運動系 k 系への空間座標の変換式


ξ = φ(v)β(v)(x - vt)


η = φ(v)y


ζ = φ(v)z


を手がかりに棒の両端の座標を求めると、棒の一端である運動系 k 系の原点 (0,0,0) は静止系 K 系の座標点 (vt,0,0) に、棒の他端である運動系 k 系の座標点 (0,l,0) は静止系 K 系の座標点 {vt,l/φ(v),0} に対応することが分かります。従って、静止系 K 系で測ったこの棒の長さは l/φ(v) であるということになります。


 アインシュタインはこのことから関数 φ(v) の意味が分かると主張しています。棒の長さ l/φ(v) を棒の差し渡し方向に垂直に運動する棒の長さを静止系で測ったものであるとみれば、その値は速さだけに依存し、運動の方向と向きには無関係であることが空間の等方性を認めれば明かだと述べています。つまり運動している棒の長さは、v-v に置き換えても変わらないことになります。結局、


l/φ(v) = l/φ(-v)


つまり


φ(v) = φ(-v)


となります。ここに至る一連の考察の結果、


φ(v) = 1


が得られ、静止系 K 系から運動系 k 系への変換式の最終的な形として、


τ = β{t - (v/V^2)x}


ξ = β(x - vt)


η = y


ζ = z


が導かれます。ここで、


β = 1/√{1 - (v/V)^2}


です。


 さてここまでは、某ブログ主催者の方から教わりながら標記論文を読書ノートのようなものが残っていましたので、四苦八苦しながらも読み進めることが出来ましたが、この後は危ういこと極まりありません。全ては気合いです。

×

非ログインユーザーとして返信する