アルベルト・アインシュタインの論文を読む

アインシュタインの論文に関する独断と偏見に満ちた読後報告です。

1905 年の論文「運動物体の電気力学」 A 運動学の部(その5)

 後に特殊ローレンツ変換、ローレンツブースト変換と呼ばれる変換式を導出できました。アインシュタインはこの変換式を利用すると、時間と空間に関してどのような知見が得られるのかをまとめています。また、標記論文の

2 長さと時間の相対性

という節では具体的に述べていなかった rAB に相当するものについても触れています。そこで標記論文の

4 運動する剛体と運動する時計について得られた式の物理的意味

という節を読むことにします。ですが、頼りにしていた計算ノートが底をついてしまいましたので、恐らく今までのように読み進めるとは思えません。ただただ気合いだけで、頑張ります。


 運動系 k 系に静止している半径 R の剛体球を考えます。この球の中心は運動系 k 系の原点にあるとします。この球の表面の方程式は


ξ^2 + η^2 + ζ^2 = R^2


です。この球はまた静止系 K 系に対して X 軸の正の方向に速度 v で運動していることになります。そこで、静止系 K 系の時刻 t = 0 におけるこの球の表面の方程式を第3節で求めた変換式


τ = β{t - (v/V^2)x}


ξ = β(x - vt)


η = y


ζ = z


に基づいて、x,y,z で表すと


x^2/{1 - (v/V)^2} + y^2 + z^2 = R^2


となります。従って運動系 k 系に静止しているときは球であるような剛体は、静止系 K 系に対して運動しているので、静止系 K 系では軸の長さがそれぞれ


R√{1 - (v/V)^2},  R,  R


であるような回転楕円体となります。ここでそれぞれの軸の長さは、静止系 K 系での球の表面の方程式で、それぞれ、(x,0,0)、(0,y,0)、(0,0,z) を代入すれば計算できます。


 この結果からアインシュタインは、球、そして形によらずあらゆる剛体は、その運動方向に垂直な Y 軸方向と Z 軸方向では運動のために形状が変化したようには見えないが、運動方向である X 軸方向には


1:√{1 - (v/V)^2}


の比率で収縮して見えると指摘しました。v の値が大きければ大きいほど、収縮の程度も大きくなります。


v = V


のときには、あらゆる運動物体は静止系 K 系から見れば、平たくつぶれてしまうことになります。そして光速度より大きな速度 v のときには,この考察は意味がなくなると述べています。つまりこの理論では,光の速度は物理的に無限大の速度の役割を演じているとの主張です。


 そして、見方を逆転させています。静止系 K 系に静止している物体を静止系 K 系に対して一定の速度で移動している運動系 k 系から見たときにも同じことが主張できるのは明かであると述べています。実際、静止系 K 系に静止している半径 R の剛体球を考えます。この球の中心は静止系 K 系の原点にあるとします。するとこの球の表面の方程式は


x^2 + y^2 + z^2 = R^2


です。この球を静止系 K 系に対して X 軸の正の方向に速度 v で移動している運動系 k 系から見てみましょう。静止系 K 系は運動系 k 系に対して Ξ 軸の正の方向に速度 -v で移動しています。そこで、運動系 k 系から静止系 K への変換式


t = β{τ + (v/V^2)ξ}


x = β(ξ + vτ)


y = η


z = ζ


に基づいて、運動系 k 系の時刻 τ = 0 におけるこの球の表面の方程式を、ξ,η,ζ で表すと


ξ^2/{1 - (v/V)^2} + η^2 + ζ^2 = R^2


となります。従って静止系 K 系に静止しているときは球であるような剛体は、運動系 k 系から見れば、軸の長さがそれぞれ


R√{1 - (v/V)^2},  R,  R


であるような回転楕円体となります。ここでそれぞれの軸の長さは、静止系 K 系での球の表面の方程式で、それぞれ、(ξ,0,0)、(0,η,0)、(0,0,ζ) を代入すれば計算できます。


 アインシュタインはさらに、時計の進み方についても考察をしています。運動系 k 系の原点に置かれている時計の進み方を静止系 K で見てみます。座標系の設定に用いられる時計はすべて同じ構造、同じ進みのものが用いられています。再度、静止系 K 系と運動系 k 系の配置を確認しておきます。静止系 K 系の時刻 t = 0 において両座標系の原点および空間座標軸は重なっているとし、その瞬間の運動系 k 系の時刻も τ = 0 に調整されているとします。そして運動系 k 系は静止系 K 系の X 軸の正の方向に速度 v で移動しています。従って運動系 k 系の原点に配置されている時計は静止系 K 系の時刻 t = 0 には静止系 K 系の原点 (0,0,0) にあり、時刻 t には X 軸上の点 (vt,0,0) に到達することになります。この位置関係では変換式


τ = β{t - (v/V^2)x}


ξ = β(x - vt)


η = y


ζ = z


から、


τ = t√{1 -(v/V)^2} = t - [1 - √{1 -(v/V)^2}]t


が従います。このことから静止系 K 系から見れば、運動系 k 系の時計が示す時刻は1秒あたり [1 - √{1 -(v/V)^2}]t 秒だけ遅れることになります。ここで関数 √(1 - x) を x = 0 のまわりのテーラー展開で1次の項まで評価した近似式


√(1 - x) ≒ 1 - (1/2)x


を用いると、(v/V) の4次以上の量を無視して (1/2)(v/V)^2 秒だけ遅れることになります。


 アインシュタインはこのことから次のような奇妙な結果が導かれると述べています。今、静止系 K 系の2つの座標点 A 点と B 点に設置されている時計を考えます。この2つの時計はもちろん同期しています。A 点の時計が直線 AB に沿って速度 v で B 点に運ばれたとすると、この時計が B 点に到着したとき、これら2つの時計はもはや同期していないことになります。A 点から B 点に運ばれた時計は、B 点に予め設置されていた時計よりも、4次以上の量を無視して、(1/2)t(v/V)^2 秒だけ遅れていることになるからです。ここで、t は時計を運ぶのに要する静止系 K 系での時間です。


 さらにアインシュタインは

仮に時計が任意の多角形をなす経路を通って A から B に運ばれても,さらには点 A と点 B とが一致しても,この結果が成り立つことはすぐにわかるだろう.

と述べています。時計が多角形の辺上を一様な速度で運動するにしても、多角形の頂点では時計に加速度が生じて方向を変えることになるので、その影響が無視できる限りにおいて認められることだと思われます。この意味で上の記述を認めて、連続的な曲線の経路での時計の運動に対しても成り立つと仮定すると、以下のようなことが成り立つことになります。すなわち、静止系 K 系の A 点に同期している時計が2つあって、そのうち一方の時計が閉曲線に沿って一定の速度 v で進み、静止系 K 系の時間 t ののちに A 点に戻ったとすると、この時計は動いていない時計に比べて (1/2)t(v/V)^2 秒だけ遅れることになるということです。そして具体例として、赤道上にあるぜんまい式の時計は、北極または南極に同じ構造、同じ進みの時計よりもほんの少しだけ、ゆっくり進むはずだと結論づけています。振り子時計のように重力加速度に違いによって周期に違いが出る時計を除くためにぜんまい式の時計と書いているのだろうと想像されます。

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